第44話 龍人の里へ

リリスが龍人の里へ行けと言う。


「龍人は10歳までは魔人に狙われやすい。ワシが王のときに、龍人の子供達のために隠れ家を作っておいたのじゃ。」


俺は呆れた。


「え?そんなもん何千年も昔のだろ?とっくに朽ち果てているだろうよ。」


「いや。大丈夫じゃ。行ってみれば判る。」


「でもよぉ……。」


「では何か?このまま身元保証人も居ない状態で町で暮らすのか?それこそ目立ち過ぎる。」


「……う。」


町へ行ってから考えようと思っていたが、甘かったようだ。


確かに、俺は大した力を持たない5歳の子供だ。そんなガキが暮らしていけるほど、甘い世界ではない。


俺が落ち込んでいると、リリスが微笑した。


「オヌシはまだ5歳。10歳まで身を隠すのじゃ!龍の里は身を隠すのに適している。」


「10歳まででいいのか?」


「10歳を超えたあたりから、スキルを覚えるはずじゃ。そのスキルがあれば、魔人や魔物がそうそう襲ってこなくなる。」


俺はそれを聞いて驚きと期待を持った顔になる。


「え?そうなの?そうしたら、両親に会えるのかな?」


「おそらくな……。ただ10歳までは隠れ続けるのじゃ、龍人族は10歳までは魔人や魔物に狙われやすく、体が人間並に弱い。」


俺はその情報にすがりついていた。


「…………。父上や母上に会える!今から5年後に!」


そして、ふと思いついた。


この情報を両親に伝えればいいんじゃないか?


そうすれば5年後に会えると安心してくれるかも……。


「今から戻って父上と母上に、それを伝えてくれば……。」


「止めたほうが良かろう……。」


「な、何故?」


「5年の間にオヌシ。死ぬ可能性もある。」


「!?」


「今から戻って、5年後に会いましょうといって、その間にオヌシが死んだらどうなる?5年後、待ち合わせ場所に現れないオヌシを両親は一生探し続けるぞ。」


「!」


「このまま去れば、魔人の死骸と戦闘の痕跡から死んだと思ってくれるから好都合じゃ。」


「なるほどな……リリスの言うとおりだ。」


「人族にしては優秀な両親だったからの、かなり危ない捜索もしかねない。生きてると思わせないほうが良いのじゃ、今は死んだと思わせる絶好の状況じゃ。」」


「そっか……でもいつか会える。」


「そうするためにも、何としても龍人の里にいくのじゃ、あそこなら安全に5年過ごせるじゃろ。」


「わかった、たけ◯この里にいくぞ!」 


「龍人の里じゃ!なんじゃ、その里は?」


こうして、俺とリリスの孤独な旅が始まった。


いつか父と母にまた会えると信じて……。

無一文で俺は屋敷を飛び出してきてしまったが…………。


これから生きていくのにお金が必要だろうな。道具も買わないといけない気が…。


しかし、それを聞いたリリスは笑った。


「金など要らん。これからは自給自足じゃ!南の森は、動物も豊富じゃろう。狩りで何とかせい。」


「か、狩りって……。」


現代日本人だった俺は、そんなサバイバルをしたことない。


ましてや、俺はキャンプもしたことが無いのだ。


南の森まで、歩いて1時間はかかる。ここから先は、月明かりを頼りに進むしかない。


(深夜に、魔物がいる森に向かう5歳児って、俺くらいだろうな。)


そんなことを思いながら、俺は道を歩く。


「思ったよりも、夜道歩けるな。月明かりってこんなに明るいんだ。」


「龍人は夜目が利く。視力もかなり良いのじゃ。」


と、リリスが教えてくれた。


「そうなんだ……。じゃあ、俺はメガネ要らずだな。」


「龍人でメガネをかけている者を見たことがないのぅ」


くだらない会話で俺は意識を保とうとしていた。


じゃないと暗闇で気持ちが落ち着かないんだ。


「はぁ……。遠いな。こんな遠かったっけ?」


身体強化魔法で走れば早いんだけど、さすがに暗闇の道では危険すぎる。


それに、俺はいま裸足だ。走ると足が痛すぎる。


テクテク歩いていくしかないのだ。


「仕方ないのじゃ、なんとか夜のうちに移動するのじゃ。リカオン達がオヌシを探しはじめる可能性もある。」


慌てるリカオン達が容易に想像できた。俺はリカオン達のことを考えると、胸が張り裂けそうだった。


「父上と母上、悲しむだろうな…………。」


「考えても仕方あるまい。今は生き延びることに集中するのじゃ」


リリスの言うとおりだ。今は考えるのを止めよう………早く森まで移動しよう。


やがて意外なものが見えてきた。


「あれは……。見張り台だ。」


ここをずっと行くと南に広がる大森林。魔獣の森だ。そこに住む魔物達は、非常に強力で有名だ。


きっと、魔物が押し寄せてきたとき用の見張り台なのだろう。


「ヤマト。見張り台の下は、ちょっとした宿場になってるぞ。」


「ほ、ほんとうだ!」


見れば、小さい小屋やテント、露店が並んでいる。


門などはない。誰でも入れるようだ。


「い、行ってみよう。」


ここは村から大分離れている。俺の顔を知る者はいない。大丈夫と俺は判断した。


そこに入ると、そこが何なのかすぐに理解した。


「冒険者相手の商人が集まっているんだ。」


魔獣の森は、一般冒険者は入ることが禁じられている。しかし、命知らずの冒険者の挑戦は後を経たない。その冒険者達の準備町となっているんだ。


深夜のため、誰も外に出ていない。


「是非とも、ここで必要物資などを手に入れたいのう。生存率が上がる。」


「無理言うなよ。金が無い。」


「どこぞに泥棒でも居ないかのぅ?」


「なんで?」


「そいつをブチ殺せば金が手に入るじゃろ?」


「それじゃ、おいはぎだよ…。」


そのときだった。1人の男が俺へ近寄ってくる。


「坊や。こんな所に深夜にどうしたんだい。」


「!」

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