第43話 別れの夜

※ヤマト視点に戻る※


リリスとの会話が続く。


「言いたいことは判る。俺は家を出るべきなんだろう……?」


そのときの俺は何とも言えない顔をしていたと思う。


……リリスの言葉に嘘はない。


彼女は俺のことを思って発言していることは理解していた。


リリスの提案は理に適っている。


「……オヌシの気持ちを考えると、辛い選択じゃがな。」


「そ、そうだ……魔人避けをもっと増やせば……。」


数を増やせば効果が高くなるし、数の問題かと思ったのだ……。


しかし、リリスは首を横に振る。


「先ほども言ったが、魔人避けはあれで十分じゃった。それなのに魔人が来た。それが問題なのじゃ。」


「く……。」


リリスは正しい。


言っていることは俺も理解できる。


俺がいることで魔人が来るなら、俺は家族にとってリスク以外の何物でもない。


リリスははっきりと俺のために、そう言ってくれてるんだ。


(そうだ……そうだよな……。)


考えるまでもない、赤ちゃんだって生まれる。


おれの大切な妹か弟が……。それがもし魔人に食べられたら……。


(考えるだけで頭がおかしくなってしまう……。)


母さんや父さんも、ナタルだって危険だ。俺がこの家にいること自体が危険なんだ。


「……。」


「……。」


俺はたっぷりと悩んだ。


しかし、ほどなくして結論は出た。


「……家を出よう。」


「……うむ。」


リリスは俺を憐れむような顔をして、そして見つめた。


俺は俺で、屋敷の庭から父と母がいるだろう二階のバルコニーを見つめた。


そして誰ともなく呟く……。


「さよなら、大好きな父上、母上。ナタル。」


この家に拾われてからの思い出が走馬燈のように、次々に頭の中に溢れてくる。


「リカオンもマリーシアも、すごく可愛がってくれたよな……。」


「そうじゃな……。」


「この家と村には思い出がいっぱいだ。ここは俺の故郷であり、実家なんだ。他に行くところなどない……。」


「……そうじゃな。ヤマト。」


リリスはたまらないという表情をした。


俺のことが不憫なのだろう。もどかしさに苦しんでいるようだった。


(忘れない。幸せな日々だった。)


でも今日でおしまい。


あまりにも突然だよな。


大好きな父上、母上。


俺は魔人との戦闘前に、リカオンもマリーシアも俺を優先して逃がそうとしていたことを思い出した。


そして、俺が両親に抱いていた疑念「俺は不要になる?」。これに悩んでいた俺は何て愚かだったのだろう。


(俺を追い出すなんて、あるわけないじゃないか……馬鹿だな、俺は……。)


一筋の涙が俺の頬を伝う。


両親の愛情を……。魔人の襲撃という究極のシーンで確信したのだ。


血のつながりなんて関係ない。リカオンとマリーシアは確かに俺の家族だったのだ。


本当にこのまま別れるのか?本音は嫌だ……もっと一緒に居たい。


でも、でも……。


チラリと魔人の死骸をみる。


「もう、次はない……。」


俺を愛してくれる両親だからこそ……だ。


俺は家族を守らなければならない。


(よし……家を出よう……)


俺は心の中で確かに決断した。


「リリス、大丈夫だ。決めた。」


「それがよかろう……両親には挨拶するのか?」


「いや、俺が家を出ると言ったら、ぜったい反対される……。」


「それはそうかものぅ……しかし、このまま失踪したら、両親はオヌシを探し続けるぞ?」


「なら、このまま消えたほうが良い。いまなら魔人に食われて死んだと思ってくれるだろう?そうすれば家族も俺を探さない……。危険には巻き込めないよ。これ以上。」


「なるほどの……それでいいのか?本当に?」


「うん。…ん?」


俺は二階の部屋から何か声がするのが聞こえた。屋敷に明かりが灯りはじめている。


(ナタルだ……。ナタルが両親をみつけて介抱しはじめているんだ……声を……。)


「……。」


俺は耳を澄ませてみた……。


(うん、マリーシアもリカオンも無事なようだな……)


声から察するに、マリーシアもリカオンも、目を覚ましたらしい。家族の動揺が伝わってくる。


「ヤマト……そろそろ。」


「わかってる!!」


俺は後ろ向きになると、決意を鈍らせないために俺は駆け出していた。


その後ろ姿が、とても悲しそうでリリスは胸が痛くなった。


「ヤマト……。」


走りながら、俺は涙を流していた。


両親に会いたい気持ちを唇を噛んで我慢した。夜道を俺はひたすら走った。


口からは噛んだ血が流れ、それが涙とまじりルビーのような色になっていた。

それから、俺は夜中の村を駆け抜けた。


両親に俺は死んだことにしなければならない。


そのため、誰の目にも止まらないことが必要だった。


幸いにも、時刻は深夜だ。


「ヤマト。身体強化を使え。出来る限りの速度で走り抜けろ。」


「わかった。」


俺達は、念には念を入れて南門から出ることにした。


町などに出るには北門から出るのが良いのだが、さすがに北門は目立ちすぎると判断したためだ。


途中、リカオンやマリーシアと水遊びをしていた川が目に入ったが、俺はそれをなるべく見ないようにした。見ると自分の心が保てない気がして……。


とにかく走った。


走りに走った。


そして、俺は無事に南門から外へ出た。


「はぁ……はぁ……。」


夜の村を出て、ある程度の距離を取ると、俺は倒れ込んだ。


寒村とはいえ、かなりの大きさだ。疲労の極致にいて疲れ切っていた。


空を見上げると真っ暗だ。


呼吸が安定してきたので、これからを考える。


「これからどうしよう……。」


リリスが質問をしてくる。


「あてはあるのか?」


「そんなもの無いよ……とりあえず、ここから迂回して北の町へ……。」


俺はぶっきらぼうに応えた。


「ふむ。北。ならば逆じゃな、このまま南の”龍人の里”を目指せ。」


「龍人の里?」

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