第42話 白龍

白いドラゴンが現れた。


(否……。これは幻影?)


リリスは目を凝らす。これは本物のドラゴンではないと直ぐに理解した。


透明でまるで蜃気楼のように、ユラユラと上空を漂っている。


リリスは昔オーブの状態だったが、これはその巨大版とも言うべき霊体だった。


「は、白龍の霊体とは初めてみるわい。」


幻影だが大きさは小さい山ほどある。空中に浮かびこちらを見つめている白龍。


「白龍よ。お前はいったい。」


リリスが状況を掴みかねていると、白龍がうなづいた。


そして、首を動かしてヤマトを見つめる。。


「む?」


ゆらり…………。


ゆっくりと動き。ヤマトを庇うかのように包み込んだ。


そして、愛おしい者を見つめるようにヤマトを見つめる。


その目は何とも悲しそうな目であった。


(泣いている?)


すると、白龍は大きく咆哮した。


「ゴウォォォォ!!!」


「うわわわ!なんじゃい!」


耳をふさぐリリス。


ドラゴンは叫び終えると、ヤマトの中に吸い込まれるように消えていった。


リリスは驚く以外、何もできなかった。


「な、何ごとだったのじゃ!?」


やがて、ヤマトが気がついた。


「う……うぅん……?」


「ヤマト!気がついたか!」


リリスは、ヤマトに駆け寄る。


「リリス……。俺は一体……?」


立ち上がり状況を理解しようと周囲を見渡すヤマト。まだ頭が働いていないようだ。やがて、思い出したように飛び起きた。


「は!そうだ!魔人!魔人は!?」


リリスは不思議そうにヤマトを見つめていた。


「何も覚えておらんのか?」


「覚えて?何をだ?それよりも、父上と母上は無事か!?」


ガクガクと、リリスの肩を揺らす。


「こ、これ。揺らすな!うむ……。説明が難しいのじゃが。魔人は死んだ。もう大丈夫じゃ、両親も無事じゃよ。」


「え?倒した?リリスが倒してくれたのか?」


「……いや。オヌシが倒したのじゃ。」


「えぇ!?お、俺が!?」


「ほれ、そこに消し炭になっておるじゃろ?」


リリスが指さした方向を見ると、人の形をしたものが黒く焦げているのが見えた。


「あれが魔人の?」


「跡形もないがのぅ……。見たことも無い魔法を使っておったぞ。」


「バカな。俺が魔法を……?どういうことなんだ。」


ヤマトは首を傾げていたが、安堵の表情に変化した。


「何度も聞くけど、父上も母上も無事なんだな!?」


「ああ。無事じゃ。」


「良かった。本当に良かった。い、一体どういうことなんだよ。説明してくれよ。リリス。」


「ワシも理解できておらんのだが、見たものをそのまま伝えよう。」


「頼む……。」


リリスは先ほど見たことを全て伝えた。ヤマトを黙って聞いていたが、驚きと共に力が抜け、膝をついた。


「何だよそれ。俺が圧倒的な力で倒して、ドラゴンが泣いてた?意味わかんないよ………。」


「ワシもじゃ。」


「でも、魔人を倒せたんだよな?本当に……。」


安心しつつ、魔人の死骸から目を離さない。


気を抜いて魔人が復活などしたら、たまらない。


しかし、しばらく凝視していたが、魔人の死骸からプスプスと煙が立ち上っているだけだ。


たぶん大丈夫だ………もう死んでる。倒したのだ。とヤマトは納得した。


魔人の死骸を見つめながら、ヤマトは考えこんだ。


(魔人は魔人避けにひっかからなかった?予知夢は絶対なのか?ドラゴンは?そして……、俺の不思議な能力は?)


疑問が次々に出てくる。


「ヤマト。下級魔人とはいえ、龍人の子が魔人を仕留めたんじゃ。誇って良いぞ。」


「そうなのか?俺は無我夢中で何したか覚えていない。つーか俺の力じゃないし…。」


「予知夢の魔人ってこいつのことなのかな?」


「うむ……しかし断定はできん。未来は流動的じゃ。」


「魔人避けは効かないのかな……?」


「あれは間違いなく効果が出るものじゃ。」


「じゃあ、何故ここに?」


「それが判らん……。誰かが手引きしたのか。それとも他の何か要素があるのか?」


博識なリリスでも、検討が付かない。


これは問題だった。


原因が判らないということは……。


「……ということは、俺がいる限り魔人はまた来る可能性があるのか?」


「おそらく……。今回のは低級魔人だったからよかったが。次また来るぞ。魔人に襲われるのは、そう遠くないじゃろう。」


「そ、そんな……。また来るのか? こんな化け物が!?」


「うむ……。」


「冗談じゃない!家には妊婦もいるんだ!!両親を二度とこんな危ない目にを遭わせられない。」


「……しかし避けられまい。」


「そんな……。」


ヤマトは自分の家を見上げた。


そこには間違いなく愛する両親が居た。そこに戻りたい……。


「言いにくいがの……。赤子が産まれたあとも、ずっとこの問題は残る。オヌシがいる限り魔人はやってくるじゃろう。家族を守り続けるのは不可能じゃ……。」


「……今回はたまたまドアを大きな音で入ってくるようなバカな魔人だったから気がついたけど。もし、こっそり侵入されていたら………。」


「皆、死んでいたかも知れんのぅ。ヤマト、結論は出ている。」


「何が言いたい…………リリス?」


「……言いにくいが、分かるじゃろう?ワシだって辛い、オヌシが家族を大事にしていたのは理解しているつもりじゃ。」


「家を出ろと?」


「そうじゃ……。それしか家族を守る方法はない」


「…………」


おれは、顔が真っ青になっていくのを感じた。確かにリリスの言うとおりだ。


俺は……俺は……。この家に居てはいけないのかも知れない。

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