第40話 身体強化魔法


そして地面に転がり、頭を打ったのか蹲っていた。


「ぐぅぅぅ……。痛ぇ……!ぐがぁぁ!」


「効いた!?」


俺は様子をうかがっていた、かなりのダメージがあるようだが………。


どうだろうか?


「こ、このガキぃ……。」


しかし、頭をさすりながら魔人は立ちあがった。多少ダメージがあるようだが、致命傷では到底ない。


「くそ……。丈夫な奴だな」


俺が絶望の声を上げると、リリスが俺に声をかける。


「ヤマト、さっきから身体強化魔法を使っておるぞ。しかも無詠唱で。」


「え?」


「気がついておらんのか。まぁ良い。今じゃ!魔人に少しダメージがあるぞ。追いうちをかけろ!」


「わかった!」


俺は怖かったが、先ほどの要領で魔人に突進した。


シュン!!


「来るかぁ?このぉ!」


迫る俺に魔人は迎撃の態勢をとる。


正面から突っ込むような愚を犯さない。途中で方向転換し、魔人の後方へ回り込む。


すさまじい速度に魔人は対応できていない。


そして魔人の後ろに立った。


驚く魔人。


「おでのう、後ろぉ!?」


「このぉ!!」


攻撃方法を知らない俺は、とりあえず思いっきり魔人の尻を蹴り上げた。


ドン!!


「ぐぎゃ!!」


魔人は尻から蹴り上げられ、3メートルほど宙に浮いた。


5歳の子供の蹴りが、体長2mほどの魔人を蹴り飛ばしたのである。


尻から蹴り上げられ宙に浮き、そのまま地面に背中から落下する魔人。


ドウン……。


「いでーー!!いでで!」


痛がっているが、致命傷には至らない。


俺はそれを見て焦った。


(まずい……。こいつかなり丈夫だ。魔人を倒すほどの力が俺にはない。痛がらせるくらいではラチがあかない。)


決定打が欲しいところだ。


「くそ!どうすれば……。」


そこで、リリスの指示が飛ぶ。


「身体強化魔法なら今教えてやるわい!!」


「い、今!?」


「やるしかなかろう!ダテに基礎練習をやらせていた訳ではないわい!魔力の圧縮をせい!」


「圧縮!?」


「いいから!圧縮せい!!早く!」


俺は言われたとおり、光の速さでバスケットボール大の魔力球を作り出した。


魔力操作ならお手のものだ。


「その魔力球にイメージをつけろ、それを右手に纏え!オヌシなら無詠唱でできるはずじゃ!!」


「わかった!!」


俺はイメージした。その刹那、魔力球は俺の掌にあつまり。大きな魔力球となり右手に纏った。


ズォォ!


「で、できた!!すごい力を感じる。」


「それで殴れ!」


「了解!!」


俺は野球選手のように振りかぶった。


そして、魔人の頭を思いっきり殴りつけた。


ドウン!!


魔人の頭に直撃すると、魔人が吹き飛ぶ。


(やはり!無詠唱じゃコヤツ!しかも、はじめてとは思えん威力じゃ!)


「ど、どうじゃ!!」


「どうだ!!」


ヤマトの初めての魔法である。


魔人に効いたのかを見定める。


「痛!!痛いっ!ゲェ!」


魔人は頭を押さえながら地面を転がっていた。片方の頭が陥没している。


しかし、痛がるだけで致命傷を負っているように見えない。


「な、なんて奴だ。頭が陥没しているのに……。普通、即死だぞ。」


「ぬぅ……。まだ威力が足りぬ。」


「そ、そんな……。打つ手がないじゃんかよ。」


下級でも魔人は魔人。


習ったばかりの魔法では効果がないとリリスは判断した。


ヤマトも動揺している。


所詮5歳の子供に出来ることは限られているのだ。


「ヤマト!逃げろ。小手先でどうにかなる相手ではない。」


「だめだ!!母さんと父さんがいるんだ!!」


俺は断固として拒否の姿勢を示す。


ここで逃げたら両親は確実に殺されてしまう。


それだけは絶対にダメだ。


「ぐぎゃ!よぐもやってくれたなぁ!」


魔人がこちらにズンズン近づいてくる。


「う、うわ……。こ、こっちにくる!」


「万事休すか!!」


リリスは俺の前に立つ。自分を盾にするつもりだ。


「ぎぎ、このガキィ!殺してやる!!逃がすかぁ!」


シュン!!


しかし、魔人はリリスを迂回するように高速で移動して、俺の目の前に立っていた。


「え!?は、はや?」


俺は反応できていない。


あまりの速度に驚く。


(きょ、距離を取っ……。)


魔人は血走った目で俺を見下ろすと、右腕を突き出した。


「ギギィ!死ね。」


ズボ!!


「!」


俺は最初、何をされたのか分からなかった。


しかし、自分の体が揺れたかと思うと腹に熱いものを感じた。


(腹?)


ゆっくりと、自分の腹を見て理解する。


魔人の腕が俺の腹に突き刺さっているのだった。


背中まで貫通している。


「う、うぐ……。あ…。」


ポタポタと地面が、俺の血で濡れていくのを感じた。


「ヤマトォ!!」


リリスの声が闇夜に響き渡る。

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