第39話 ヤマト vs 野良魔人
「うぁぁ!!」
俺は魔人めがけて前傾姿勢で突っ込んだ。
リリスが絶望の声を上げる。
(死にたいのか!ヤマト!)
しかし、リリスの声など俺の耳に届かない。
母を助けるんだ!お腹の赤ちゃんを助けるんだ!家族を!!
(5歳の体当たりなんて効かないはず!くそぉぉぉ!!)
無意識に俺は突進するとき、両足に魔力を込めていた。
ドゥン!!
途中からさらにスピードがアップして俺の体は弾丸のようなスピードに変化していた。その速度は尋常なものではなかった。
横にいたリリスが驚愕の表情を浮かべる。
(は、速い!?これは身体強化魔法!?しかし、ヤマトは無属性のはず……。)
ドン!!
魔人は、腹にタックルをしてきた小さい「何か」に驚き、思わずマリーシアを手放す。そして、そのまま弾き飛ばされた。
「ぐぎゃ!?」
「おおおぉ!」
俺は魔人を抱きかかえたままま、突進を止めない。
「げほ……。ヤ、ヤマトちゃん?!」
マリーシアが倒れ込む。
何とか首をあげて前方をみると……。
衝撃の光景に驚く。
息子が魔人を抱え上げて、そのまま窓へ向かって突進していたのだ。
リリスはヤマトの進行方向を見て焦る。
(イカン!そっちは窓……。)
リリスが警告しようとしていたのも束の間。
俺は叫んだ。
「こっちで良いんだ!」
ガッシャーン!
窓枠を突き破って、魔人もろとも二階から落ちる二人。
(ヤマト!!)
リリスが叫ぶ。そして、俺達は二階から落下した。
「ヤ、ヤマトちゃ……ん。」
マリーシアは床に倒れこみ。そして顔だけ上げながら、二階から魔人もろとも落ちていくヤマトを見て……。そして気を失った。
・
・
・
落下する二人。
俺は魔人を手放し、二人とも地面に落ちるしかなかった。
しかし、リリスも追うように落下していた。
「ヤマト!」
「リリス!」
落下しながら、リリスが狂ったように叫ぶ。
リリスは実体化して。そして俺を抱きしめた。そして、体全体で俺を包み込みように抱きしめ直す。
そして魔人の体と一緒に俺は地面に叩きつけられた。
ドガ!!
「ぎゃ!」
「ぐ!」
「がは!」
リリスがクッション替わりになり、奇跡的に俺は生きていた。
「うぅぅ……ん。」
俺は地面から顔を上げて、何とか立ち上がる。
「がは……。」
リリスが口から血を吐く。
彼女は実体化して俺を守ってくれたんだ。実体化しているときは、リリスは生きている人間と何ら変わらない。かなりの重傷に見えた。
「リリス!」
俺は駆け寄る。
「げほ……げほ……。だ、大丈夫じゃ。オヌシの魔力で修復は始まっておる。」
「しゅ、修復?」
見れば、リリスの胸のあたりに俺からの魔力が漂っているのが見える。
「ワ、ワシは生きているようで生きておらん。オヌシの魔力があれば、何度でも蘇る。」
「そ、そうなのか。」
確かに、すでにリリスは何事もなかったかのように立ち上がろうとしていた。
「逆を言えば、オヌシが死ねば。ワシは消滅する。」
「……!」
そんなこと、リリスは教えてくれていなかった。今になって何故……。
俺が青ざめていると、リリスは微笑した。
「気に病むと思ってな。一度死んだ身。オヌシと心中する人生も悪くないわい。」
「リリス……。」
「ワシはもう大丈夫じゃ!それよりも魔人は!?」
「はっ!そうだ!」
魔人はすぐ横に居た。
魔人は地面に背中から落ちたことで悶えていたが、すぐに飛び起きたようだ。
そして大声で叫んだ。
「おで!怒ったぞぉ!痛かったぞぉ!!」
怒り狂った魔人が突進の態勢を取る。リリスが指示をとばす。
「横に跳べ!くるぞ!!」
「!?」
俺はとっさに右横に思いっきり跳んだ。
すると、リリスの指示が正しかったことが証明された。
ゴゥッという音と共に魔人が俺がいた場所に突っ込んで来た。
当然、そこに俺はいない。
間一髪……。
(今のが当たっていたら死んでいた。まるで、弾丸だ……。)
「速い!速すぎだろ。」
「魔人の戦闘力は人のそれとは比べものにならん。」
「ど、どうする!くそ!」
「ちょっとやそっとの攻撃は通用せん、オヌシにはまだ無理だ!何とか逃げるのじゃ。ヤマト。」
「できない!俺が逃げたら、両親がどうなる!?はっ?」
一瞬目を離した隙に、いつの間にか魔人が目の前に立っていた。
「う、うわぁぁ?!」
俺が動揺すると、魔人が俺の左腕をつかむ。
ガッ!
「こ、この……。離せ!」
俺は振りほどこうとするが、まったく動かない。
「逃げさねぇ……。ゲガガガァ!」
ギリギリギリギリ。
「ぐあああ!?」
俺の腕に激痛が走る。
万力のような力だ。
「腕が……。お、折られる。くそ!」
俺はさっきの要領で足に力を込める。
「うぁああああ!」
そして、俺は魔人に腕を掴まれたまま走り出した。
「ぐ、ぐぎゃ?な、なんだぁ……。このガキ。ぐぎゃ?」
「ま、また身体強化魔法!?無属性はどこへ行ったのじゃ!」
リリスが俺が身体強化魔法を使っていること叫ぶ。
しかし、俺は必至である。そんな言葉は耳に入らない。
シュン!!シュン!!
高速で屋敷の庭をジグザグと超高速で動きまわる俺。
なんとか魔人を振り払おうとする。
映画で走行車に、必死にぶらさがるシーンのように魔人は振り回される。
すでに魔人のほうは足は地についていない。かなり必死の様子だ。
「このぉー。逃さねぇぞぉー!龍の子ぉー」
「う。うあああ!」
近くにあった、庭の木に向かって走り出した。そして魔人を木に叩きつけた。
グシャ!
「ギャオン!」
何かが潰れる音がして、魔人が手を離した。
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