第36話 自己嫌悪

モブオナの言葉に動揺が隠しきれない俺。


(まさか……。俺が家を追い出される?そんなことをリカオンとマリーシアがするわけがない……。まさかな。)


はじめは無視しようかと思ったのだが、俺は急速に不安になっていく………。


確かに、俺はマリーシアとリカオンの本当の子供ではないのだから、生まれてくる妹か弟とは、俺は実は血縁上他人ということになる。


それにリカオン達とも本来は他人なのだ。 


俺だけが血がつながってないけど、家にいれるよね?


俺が不安になり青ざめた顔になると、モブオナがからかいはじめた。


「お別れパーティしなきゃね、ヤマト君!へへぇっだ!」


「この!」


ボカ!


俺は普段だったら相手にもしないモブオナに無性に腹が立ち、モブオナの頭を叩いた。


モブオナは俺に頭を叩かれたことにはじめキョトンとしていたが、やがて頭に手をやり、顔をクシャクシャにして泣きはじめた。


「うわぁぁ!!ヤマト君が叩いたぁ!うわぁぁ、ヤマト君なんか要らなくなるんだからねぇ!!ボクもヤマト君いらない!」


(………しまった。)


憎まれ口を叩きながら公園から出ていくモブオナ。


その後ろ姿をみながら、俺は不安に襲われていた。


(俺は他人……。本当の家族じゃない……要らなくなる?)


なんだか不安になってきた。そりゃ本当の子供のほうが可愛いに決まってるよな。俺は他人なんだし。そう思うと、なんだが無性に悲しくなってきた。


俺はトボトボと公園をあとにして屋敷に帰った。


屋敷に帰ると、マリーシアにとても怒られた。


「モブオナ君のお母さんから苦情がきたわよ!ヤマトちゃん!なんで叩いたの!」


しかし、怒られていても俺は上の空で聞いている。


「……………。」


「聞いているの!ヤマトちゃん!?」


(この怒っているマリーシアも、妹が生まれたら相手にもしてくれなくなるのかな?俺は追い出される?妹や弟ができたのに、俺の居場所がなくなる?)


不安が俺の頭を巡っていた。次の日も、次の日も………、そればかり考えていた。

その日から、俺はどことなく両親から距離を取るようになってしまった。


相変わらずマリーシアとリカオンは楽しそうだ。話題はこれから生まれてくる赤ちゃんのこと。


一方で悲しくなっている自分がいる……。本当は嬉しいんだけど、悲しい。


不思議な感覚。


楽しそうな両親を見れば見るほど、疎外感が生まれてしまうのだ。


(器が小さいな、俺……。)


そう思って自問自答していた。


ある日の夕方、庭のベンチに座りながら木をボーっとみていた。


リリスは何を言っていいのか判らないようで、視覚化だけして、俺の横に立っていた。


ふと、声がかかる。


「ヤマトちゃん?」


俺はビクッとすると、声のほうを振りむく。


そこには、マリーシアが立っていた。


「母上………。」


マリーシアが横に座って話しかけてきた。


「どーしたの?ヤマトちゃん、最近元気ないね。」


「ううん。なんでもない。」


俺は、ぷぃっとそっぽ向く。


演技でもなんでもなく、何だかイライラしていたのだ。


優しくされれば、されるほど腹が立つのだ。


「あらら、どーしたの?ヤマトちゃん?困った子ねー。」


マリーシアは俺の頭に手を置きナデナデしている。


俺はイライラが最高潮になっていた。


悲しかったのだ。新しい命を祝えない自分が!そんな自分の気持ちを理解しない母親が!どういうわけか母親が憎く感じた。


今思うと、嫉妬。やつ当たりだ。


俺は混乱していた。


「やめてよ!」


パシ!っと手を叩き落とす。


「……!?ヤ、ヤマトちゃん?」


「あ…。」


驚いた表情のマリーシア。


俺はマリーシアに手を上げたことなど、一度もなかった。


それなのにやってしまった。


(ああ、俺はなんてことを……。優しい母親を悲しませてしまった。)


そう思っているのだが、俺の口から飛び出た言葉は全く違うものだった。


「放っておいてよ!僕は………僕は本当の子供じゃないんでしょ!?」


すると、マリーシアは青ざめた顔になる。



「ど、どうしてそのことを………。誰から聞いたの!?」


(知ってたよ、俺は前から知っていたんだ。二人は隠していたけど、俺は転生者だから……。)


そう言いたいが、それを言えないもどかしさ。


「知ってたよ!そんなの!それよりも、僕は…………僕は、もう要らなくなるんだよね!」


「な、何をバカなことを………。」


「もういいよ!」


ダァーーー!!!俺は逃げた、自分の泣き顔を見られたくなくて……。


「ヤマトちゃん!待って!!」


俺は振り返ることなく走った。


情けない俺。自分が嫌になる……。


俺はこの日のやり取りを一生後悔することになる。

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