第35話 家族のビッグニュース

誕生日が終わり。


俺とリリスは、その日の夜。


警戒していた。


(何か異変があれば、庭のトラップが反応するはずだ。すぐに家族に知らせて逃がす。)


(オヌシが狙いじゃ。オヌシだけでも早く逃げるのじゃ。)


(家族の命が最優先だ。俺のせいで家族が死ぬなんて耐えられない。絶対守るんだ。)


夜通し、俺とリリスは起きていた。


リリスは視覚化できるので、ギリギリ庭先まで出てもらい。


何か様子がおかしいことがあれば、すぐに俺に伝えることになっている。こういうとき、リリスは役に立つ。


しかし…………。

結果、何も無かった。


次の日。いつもどおりの朝が来たのだ。


「良かったぁ……。魔人来なかったな!リリス!」


「うん。良かった!良かったのじゃ。魔人避けが効いたようじゃ。」


リリスも俺も安堵した。


予知夢は絶対ではなく。回避可能とのこと。


俺達は無事、最悪な未来を回避したのだ。


本当に良かった。享年5歳とか冗談じゃねーし。


徹夜だったから、翌日は夕方までぐっすり眠ったけどね……。


「ヤマトちゃん!いつまで寝てるの!もうお昼よ!」


勘弁してくれよ…。


そして。

それから、数か月……。


何も事件は無かった。本当に危険は去ったようだ。


只管、平和な時間が流れ続けていた。


あ、途中で俺が熱を出して。家族中が大騒ぎだったけどね。


あのときのマリーシアの慌てようは微笑ましかった。


(風邪くらいで、あんなに心配してくれる親がいるなんて幸せだな……。)


俺は幸せを謳歌していた。


……ちょうど、そのときだった。


我が家にビックニュースが舞い込んだのは。


なんと、マリーシアが妊娠したのだ!


最近、マリーシアの目眩が酷かったので、医者に見てもらったところ、妊娠が判明したのだ。


リカオンが家にいる時間が多かったので、両親の「仲良し」の時間が多くなったことも起因しているのだろう。


まぁ、そんなことはどうでも良い。


俺は兄になるのだ!凄い凄い!!


両親は大喜びだ。俺も喜んでいる。


妹がいいな!絶対妹がいい!

その日から、我が家は大忙しだった。


赤ちゃんを迎えいれる準備で色々あるのだ。


この世界には産婦人科医みたいなものは存在していなく。自宅出産は常だ。


医者の手配。ベビーグッズなどなど……。やることが山積み。


それはとは別に、俺は気楽なものだ。子供だから、ただ楽しみにしていれば良いのだから。


(妹が出来る……。)


そう思うだけで嬉しい。


いや、妹って決まったわけじゃないんだけどね?


嬉しくてなんだかニヤニヤしてしまう。


すべて順調である。いやー、幸せってこういうところにあるんだね。


(さて、今日も俺は子供らしく振る舞うか。)


最近、俺は近くの公園で「友達」と遊ぶことが多い。


友達と言っても、俺は精神年齢が40歳なので話が合うはずがない。


両親が心配しないように、わざと作った「仮面友達」さ。マリーシアの悪阻が酷いので、それに気を遣ってのこともある。


面倒はかけられない。


友達の名前は「モブオナ」。茶色の髪をもつ男の子だ。俺の家からそう遠くないところに住んでいて、呼び出すと必ずついてくる。ちなみに同い年だ。


その日、俺達は公園の砂場で、「アート」作品をお互い競うように作っていた。


マリーシアは、やはり悪阻がひどいので屋敷で休んでいる。


ここには俺とモブオナしかいない。


「へー、すごい。赤ちゃんが生まれるの?ヤマト君の家に?」


モブオナは、良く分かっていないようだ。しかし、赤ちゃんが家にくるということは理解しているようだ。


「うん。そうなんだ。絶対妹がいいんだ。僕は!」


俺はそう答える。まぁ、弟でもいいんだけど弟は反抗期とかあると面倒くさい。


妹もあるだろうが……。妹なら許せると思う………。


俺は砂で作ったアートが完成間近なのに満足していた。


「ヤマトくん……それ。」


モブオナが俺のアート作品をみて顔を赤らめている。それは女性の胸をかたどったものだからだ。結構な自信作である。ちゃんとビーチクもつけている。


「ふふ………。次は男のアレを……。」


「やめなよ!ヤマト君!もう!リアルすぎるんだよ、ヤマト君のって。」


モブオナは、恥ずかしそうにしている。


しかし、俺が作るのを期待しているようにも見える。


ふふふ、では作ってやるか………。


俺が兄になるのかぁ……。楽しみだな。


俺は兄弟がいなかったから、そういうの憧れていたんだよね。 


ふふふ、早く生まれないかなぁ。


俺がニコニコしているのを見ると、モブオナが気になる一言を漏らした。


「じゃあ、ヤマト君は家に居れなくなるってこと?」


「え?」


モブオナの言葉に俺はピタリと止まった。


何を言った?こいつ?


「だってさぁ、この前教えてくれたじゃん。ヤマト君は”本当の子”じゃないんでしょ?「ようし」って、やつなんでしょ?」


そうだ、俺はモブオナには本当のことを言っている。


なぜ5歳の子供に教えた?と疑問に思われそうだが、これには俺の作戦がある。


どうも両親は、俺が本当の子供じゃないことを隠したいようだった。俺もその意向に沿うつもりだったのだが……。


最近、方針を変えていつか話すべきと考えているようなのだ。


そのせいで両親はやりにくそうだ。


俺が寝入ったのを見て、「いつ、話す?話さない?」と相談している。


それを知っていた俺は、少し作戦を考えた。


まずモブオナに俺が養子だと話したんだ。


それが巧妙な第一段階だ。


自動的にモブオナの両親がそれを知るだろう?


さらに、モブオナは親にそれを伝え……。そしてママ友ネットワークで、それをマリーシア達に伝えるだろう。


そして、こうなる。


「ヤマトちゃん。知っているっぽいわよ!」ってな具合にね。


伝言ゲームだ。


すると、マリーシアは先ほどのように「な、なんで知っているの!?」となるだろう。


そこで、「知っていたよ、あはは」として明るく終了させるつもりだ。


名付けて「子供は明るくすべて受け止める」作戦だ。完璧だ!

俺はモブオナの言葉に笑った。


「養子だから居れなくなる?そんなバカなことないよ。ははは、バカだなぁ。モブオナは……。」


俺は笑うと、モブオナは笑われたことに腹が立ったのかムキになって反論してきた。


「そんなことないよ。「かとくあらそい」て言うのを避けるために、養子は遠くにやっちゃうってパパから聞いたことあるもん。」


……………おそらくモブオナは「家督争い」のことを言っているのだろうが、意味が分かっていないと思う。


どこかで父親がそう話しているのを聞いたのだろう。


俺はモブオナの言葉に少しだけ不安を覚える。

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