第29話 土嚢とヤマト

魔力の視覚コントロールを開始して数日後経過。

あれから、俺は魔力を「視る」ために自分の突き出した手の先を一日中凝視している。


とても地味な訓練だ。はっきり言って地味すぎて嫌になる……。


こんなことをしている時間があれば、本を読んでいたいのが本音だ。


しかし、生存率を上げるためにやらねばならない。本は合間に読めば良いのだ。


ちなみに、この訓練。昔の大魔導士や勇者は絶対してたらしいけど、今は皆無らしい。


俺は失われた教育方法で、この「視る」訓練をしているわけだ。


超地味にね……。


「うぬぬぬぬ」


相変わらず、俺は手の先にある空間を凝視しているが、まるで視えない。


俺の手の前には、ただの空気があって透けて見えるだけだ。


続けること3分…………。


(つ、疲れた……。)


(まだじゃ。続けんかい。)


しかし、俺は疲れてしまってダラリと腕を下ろす。


リリスはうるさいが、俺は休み休みにやっている。


ここ数日こればっかりやっているが、まるで進展がないんだもの……。


(リリス。まったく魔力が見える気がしないんだけど…?)


(じゃから続けろ。もっと魔力を感じるんじゃ。)


(そんなこと言ってもよぉぉ………。)


それを続けること1週間、まったく変化がない。


さすがに心配になったのか、リリスが、「やり方を変える」と提案してきた。


(拝むかのように両手を合わせて、左手から右手に流してみぃ?)


(こ、こう?)


とある錬金の人みたく、両手を合わせてみた。そして左手から右手に向かって魔力を放出するイメージをする。


すると、ゾワワワ!っていう感覚が両手に走った!


そして手の平に、白い靄のようなものが見えた。


(な?なんだ?今の!?)


(それが魔力じゃよ。やり方が合っていなかったようじゃな。一発で見えるとは……。時間を浪費してしまった。すまんのぅ。)


(い、今のが魔力……。)


(では、今のを3時間ぶっ通しでやるのじゃ。)


(ぎゃ……。)


リリスは厳しかった………………。


これから、1ケ月リリスとの猛特訓が続けられ(主に自室で行われた。)、とうとう魔力を完全に”視る”ことが出来るようになった。


魔力を扱えても、魔法属性が無いから魔法使いにはなれないにだけどね……。


////////リカオン視点///////


最近のマリーシアは激しく心配していた。


そのせいで、最近は睡眠不足だ。俺はそんなマリーシアを心配で仕方ない。


「最近元気ないぞ?どうした?」


「最近ヤマトちゃんが変なのよ。」


「何が?」


「ヤマトちゃん。昼間ずーと両手見てるのよ。それに、まるでテレパシーで話しているみたいに、たまに頷いたりして……。」


「なに?手をか?どどど、どうしたんだろうヤマトの奴、痛いのかな。すぐに病院へ!」


俺は慌てていると、マリーシアが笑った。


「怪我をしている感じではないのよねぇ……。でも病院に行ったほうがいいかしら。」


マリーシアはヤマトを町の医者に見てもらおうか、真剣に検討しているようだった。


////////ヤマト視点に戻る///////


魔力を視えるようになってから数ケ月。


俺は毎日リリス先生の指導のもと、魔力を球体にする訓練を続けている。


はじめ、モヤモヤとした魔力が徐々にはっきりと形を造っていけるようになった。


魔力が視えると、形になっていく様が分かって楽しい。


俺はこの訓練に夢中になっていた。


リリスは俺の魔力が球体になりつつあるのを見て満足そうに頷く。


(よし……。まだ安定していないが、球体になりりある。良くやったのじゃヤマト。)


リリスは、俺の頑張りを褒めてくれた。


だんだん球体になりつつあるので、もうすぐ圧縮の訓練に移行するらしい。


魔力の圧縮って意味が分からないが……。


(すばらしい速度で魔力操作を身に着けておる、いまなら低級魔法くらいなら出せるじゃろう。属性が無いのは口惜しいな。)


(それを言うなよ……。)


(魔人ごとき、自分に実体があればどうとでも出来るのじゃがのぅ。)


(今回、俺が予知夢で見た魔人って。強いのかな。)


(弱いほうじゃ、いわゆる野良魔人じゃ。)


(野良犬みたいだな……。)


リリスは、何ごとか考えていたが。決意したように俺を見た。


(よし……。そろそろじゃな。)


(え?)


(魔人避けを作るのじゃ。)


(おぉ!とうとうか!)


それから先、リリスは俺に指示を飛ばす。


(家の中で何か使えるものは……そうじゃ。あれがいい。)


リリスは家の倉庫に俺を連れて行った。


うちの庭には、結構立派な倉庫があるのだ。


リリスはそこに着くと、積み上げられている土嚢を指さした。


(土嚢?それ使ってどーすんのよ。)


俺はあからさまに訝し気な顔をしていた。


(なんじゃ、可愛い顔しおってからに。)


どうも、リリスからすると愛らしい顔に見えるらしい。


ベビーフェイスは最強だった……。


それはそれとして……。


(何をするつもりなんだ?リリス?)


(砂に魔力を当て続けるのじゃ、ヤマト)


(砂に?どういうことだ?リリス?)


(いいから言うとおりにせい。)


(わ、わかったよ………。)


リリスに言われ、俺は仕方なく土嚢に向かって魔力を放出する。


「ふぬぬぬ……。」


倉庫の真ん中で、俺は土嚢と相対していた。かなりシュールな映像である。


///////マリーシア視点に戻る///////


そのとき、マリーシアがヤマトを探しに倉庫まで来ていた。ヤマトはそれに気がつかない。


倉庫のドアを開いたマリーシア。


そして自分の息子の様子を見て固まる……。


「ヤマト……ちゃん?」


土嚢に手をかざしている俺。


当然マリーシアにはその意図が伝わらない。マリーシア……というか通常魔力は視えないのだ。


土嚢に向かって一心不乱に手をかざしている息子をみて、マリーシアは青ざめる。


「ヤ、ヤマトちゃん………。」


パタンと、ドアを閉じるマリーシア。


彼女は、来週には病院にヤマトを連れていこうと誓うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る