第28話 4歳になりました。

俺は3歳になった。


立ち上がって歩くことも出来るし、いろいろ動ける。


この頃になると俺は猛烈に勉強を開始していた。


勉強……と、言っても。書庫にある本を読むだけだけど。


けれども、それはそれで驚かれた。


「あなた!ヤマトちゃん、本を読んでいるわ!」


「本当か!う、うちの子は天才だったんだな!すごいぞヤマト!」


確かに3歳では早いほうだろうけど、俺はこの世界の識字率を聞いて納得した。


ラスタリス王国全体で5%。


俺の元いた世界では、ほぼ全員が文字の読み書きが出来たので衝撃的だった。


この世界で、紙の普及率にも影響しているらしいんだけど。とにかく本が貴重らしい。それに伴って、読む人口も少ない。


(当然の低識字率になるってわけだ。)


商人などは必須らしいけど。逆を言えば、文字は生きていくのに必要ないと思われている世界。


ましてや、こんな片田舎では文字が読めること自体が珍しい。


(リカオンは、結構珍しいタイプなのか……?100冊の蔵書数だ。)


しかし、後で判明した。


魔法使いは国から重宝される。そのため、それなりの教育が施される。結果として、識字率高いらしい。


何にせよ、本に囲まれている環境は使わない手は無い。


折角、生まれ変わったんだから。今生は精一杯生きたい。出来ることをやって、俺は夢のマイホームを手に入れるんだ!


そう思って、俺は毎日本を読み漁っていた。


そんなときだった……。


リリスからの突然の提案に俺は驚いた。


「3歳になり。十分訓練が出来る体になった。魔力操作訓練をするぞ。」


「は?」


突然の提案。


俺は戸惑う。


「い、いや……。俺は魔法使いの才能ねーじゃん。やっても無駄だって。」


「魔法使いにはなれないかも知れぬが、やらねばならぬ。」


「ど、どう言うこと?」


聞けば、魔力をもっていれば魔力自体の操作は出来るらしい。


「魔力操作って、魔法使いだけしか出来ないと思ってたよ。」


「そんな事はない。昔の魔法使いは、魔力操作に10年の時を費やしたもんじゃ。」


「へ、へぇ……。」


「魔力操作を覚えれば、きっと”魔人避け”を作るのに役に立つ。」


「”魔人避け”?」


「ああ、奴らは龍人の魔力を嗅ぎ分けてくる。」


「い、犬みたいだな……。」


「似たようなもんじゃ。ワシがヤマトの魔力を制御しているから、おそらく何もないと思うが。魔人避けを作っておいて損はない。」


「だから、その魔人避けって何だよ。」


「魔力をしみ込ませた物体を、別場所にバラまくのじゃ。」


「しみ込ませる?」


「そうだ。何でも良い。服でも良いし、棒切れでも良い。とにかく匂いをしみ込ませて、居住地と関係ない場所に撒くのじゃ。」


「なるほど。撒き餌みたいなものだな。」


「おお、そうじゃ。その言い方がベストじゃな。」


「さ、さっそく作ろうぜ!」


俺は俄然やる気になってきた。


実際、ちょっと心配だったんだよ。


”リリスに任せておいて、本当に安全が担保されるのかな?”ってさ……。


生存率が高まるなら、何でもやるぜ!


「では、訓練を開始する。魔力避けを作るのに、まずは魔力操作技術を覚えなければならん。」


それから俺の訓練が始まった。

1年後。

俺は4歳になった。


毎日毎日、魔力操作訓練は続く……。


1年やっても、まだ魔人避けを作らせてくれない。


(こ、こんなに時間がかかるなんて思ってなかった……。)


しかし、訓練の甲斐あって。最近は魔力を大分放出できるようになって来た。


魔力は目には見えないが、ボワボワ~と出ているのを感じる。


まるでプールの中で水流を感じるときのような感覚だ。これはこれで楽しい。


楽しいんだが……。


リリスは無理難題を、次々に俺にふっかけてくる。


(ふむ、次にその魔力を圧縮して、丸い球体にするんじゃ。)


(何?球体?何言ってんだ?)


ちなみに俺達は部屋の中で訓練をしているので、テレパシーで会話している。


(嘘だろ?出来るわけないし!第一見えないし!)


俺は文句をリリスに言う、だって無茶苦茶だろう?


見えないものを球体にしろとか。


(文句が多いぞ、ヤマト。)


(だってよ……、無茶苦茶だぜ?お前の言ってることって。)


(できないことをワシは言わん。)


(そ、そうなの?わりと出来るものなのそれって……。)


(昔の龍人は、そうやって訓練していたものじゃ。オヌシのような赤子は見たことがないが…。)


(そりゃそうだろうな……。)


(今の時代の魔法使いの全員が訓練方法を間違えている。正しい訓練法を学べるんじゃ。感謝せい。)


(間違えている?)


(うむ。魔法に習熟するのには、魔法を連発すれば良いと思っておる。しかし、それは間違いじゃ。魔力操作に集中すべきなんじゃ。)


リリスは俺の不平不満にも文句も言わず、ちゃんと説明をしてくれる。


結構やさしい師匠だ。


俺の態度が悪すぎるというのも、反省しなくてはならない………。


反省…………。


(わかった……。ごめん)


(うむ。ではさっそく魔力を圧縮して球体に………と言っても、たしかに突然は無理じゃろう。まずは魔力の視覚コントロールを学ぶか。)


(よろしく頼みます……。)


(なんじゃ、急に殊勝になったのぅ。気持ち悪い。)


(き、気持ち悪いとはなんだ!!)


(ほほほ。そうじゃ。それでこそヤマトじゃ。)


こんな具体で訓練は続く……。

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