第24話 最高の両親
俺がエンジストーンに触るのを確認すると、司祭が詠唱を開始した。
「#########!」
何語かわからないが、高速で詠唱を開始した司祭。
やがて、俺のほうへ視線を落とすと声をかけてきた。
「水晶へ魔力を流すイメージを持つのです。さぁ。」
魔力を流す?
それってどういう……。
いや、以前やったことはある。
魔水晶でだ。
あれと同じやり方で良いはずだ。
とりあえずやってみよう。
出来るだけを力いっぱいやるしかないよね?ちゃんと全力でやらないと、本当の適性が分からないと思うし……。
この前、俺は無我夢中で漫画や小説で見た姿を真似た。
そうしたら、気絶してしまった。
おそらく、あのやり方で間違っていないはずだ。
(体の中の魔力を放出する感じで……。)
すると、すぐにエンジストーンに変化があった。まず、赤い色になり、次に水色、茶色と次々に色が変わっていく。
その様をみて、司祭が驚愕の表情で声を出す。
「な!?」
やがて、色の変化スピードが激しくなっていく。
何だか壊れた信号機のような慌ただしさだ。
「な、なんだ。こんな色の変化は見たことないですぞ!」
そうなの?
エンジストーンが発光を始めた。はじめ米粒くらいの大きさだったが、
やがて、ストーン全体が強い閃光のように輝き出す。太陽さながらだ。
司祭だけでなく、祭壇に並んでいた人達も光の強さに叫ぶ。
「ま、眩しい!」
「きゃあ!」
しかし、光はすぐに収まる。
司祭は驚きのあまり口を開ける。
「か、神レベルの魔力……。そ、そんなバカな……。」
司祭はガクリと膝をつく。
エンジストーンの変化は続く。
エンジストーンが色を変え、まだらな色になってきた。
まるで、いろいろな絵の具を水の中で溶かしているかのようだ。
そして、それも徐々に安定してきた。
出来上がった色は……。そう。虹のような色合い。それは、とても美しかった。
全体的にギラギラとしたエメラルド色である。そして、赤 金 青 茶 黒 白 紫とグラデーションをかけていた。
素晴らしい芸術作品のようなエンジストーンとなった。
しかし、変化はそれだけでは終わらなかった。
色は溶け合い。混ざり合う。そして出来上がった色は?
透明だった。
と、透明?
「こ、これは!?」
司祭は腰を抜かし座り込んだ。
「ど、どういうこと……?」
「ヤ、ヤマトの属性は。」
両親の言葉が続かない。
これは、何属性なんだろう?だれか教えてくれ。。
しかし、妙な雰囲気だ。
その後ろのギャラリーは、何故か笑う者も出てきている。
(な、何故笑っている。)
司祭の様子がおかしい。
「お、驚かせやがって……。」
お?何だ?コイツ。口調が悪くなってるぞ?
マリーシアに聞いてみよう。
「ママ?」
「ヤマトちゃんこれは。無……。」
「?」
「無属性よ!」
……へ?
「む、無属性?」
マリーシアの表情は戸惑いで、何と言って良いか分からない。
無属性。それってどういうこと?
俺はどーしていいのか分からない。
ザワ。ザワ。ザワ。
やがて、ギャラリーから罵倒が始まった。
「なんだよ。期待させやがって。」
「カスかよ。」
「ただの凡人じゃねーかよ。」
罵倒する者がいれば、疑問を口にする者もいる。
「で、でもよ。あの光は神レベル。」
「誤作動じゃね?結局、無属性だったし。」
「そ、そうよね。あんな子供が……。」
な、何だ。
転生テンプレと違う。
俺の知っている異世界転生と違うんですけど!ここは俺の才能が発見されるとこだろ!
俺は恐る恐る、司祭に声をかける。
「あの……。」
司祭は、はっと我に返り立ち上がる。そして、ジーっと、俺を見つめてきた。
そして、マリーシアとリカオンに向き直った。
その顔明らかに怒っていた。
「名前を聞いていなかったな、ギルドにも報告させてもらう。全く人騒がせな……。」
え?
なんか大事になりそうで怖いんですけど……。やばい状況じゃない?
しかし、俺の両親をナメていた。
リカオンは人間とは思えない速度で俺に接近すると……。ガバッと、俺を抱えこむ。
そして、脱兎の如く駆け出した。
マリアースは、いつから持っていたのか。煙玉を両手に持っていた。
司祭がそれを見て青ざめる。
「な……。だ、誰か!」
マリーシアは、ニコリと笑うと。躊躇いもなく煙玉を床に叩きつける。
ボウン!
何だか間抜けな音で爆発音が響く。
モクモクと、神殿中を煙が充満していく。
(忍者か!神殿を煙まみれにしちゃダメだろ……。ママん。)
煙が引いたときには、ヤマトも夫婦も残っていなかった。
司祭は何がなんだか分からない
「な、何 だったんだ?」
そう呟いた司祭は、煤だらけの神殿を見て膝をついた。
その姿は、神に祈る姿にも見えたが内面は全く違った。
・
・
・
・
さて…………。
敵(?)から逃げ切った俺達は、城門近くに待機させていた馬車に乗り込む。
そして、まっすぐに馬車を走らせていた。
俺はマリーシアに抱きしめられながら、馬車を走らせるリカオンの背中を見ていた。
(この夫婦。う、動きに無駄がない……。)
お互いに無言だし連携抜群である。この忍者達(両親)。
Aランク冒険者というのは皆こうなんだろうか。
いや、この夫婦が特殊な気もする……。
その日の夜遅くに自宅についたときは、リカオン、マリーシアは笑いながら大広間で紅茶を飲みながら、お互いを褒め称えていた。
「マリーシア!煙玉とは参った。用意いいね!」
「あなたこそ素敵だったー、まだまだ現役ね。」
これだよ、あれだけのことして……。全く気にしてない。
無属性持ちって、ことについては後日話し合おうってことになっている。
俺は、父 と母を落胆させちゃったのでは、なかろーか。見放されたりしないよ?
ちょっと心配になって話しかける。
「パパ、ママ、ぼく……。ごめんなさい。」
夫婦は顔を見合わせて、笑い出した。
「何を謝るの?」
「ははは。そうだぞー。謝ることないぞー?」
「お、怒ってない?」
そう言うと、二人は顔を見合わせて笑った。
「ふふ。怒るわけないわ。」
「はっは!そうだ。怒るわけないぞ。」
「だ、だって僕才能が……。」
「お前は大切息子。得意なことも不得意なことも全部お前の良いところだ。怒るなんて筋違いだ。」
「そうよ。選ぶべきじゃない道が一つ見つかったと思えばいいのよ!」
「パパ。ママ……。」
「パパとママは、あなたを守るためなら何でもやるわ。」
ニコッと笑う両親の笑顔が眩しかった。
俺は思った。
(俺は最高の両親を得たのかもしれない……。)
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