第23話 エンジストーン

祭壇前の行列に並ぶ俺達。


見れば親に連れられている子供達が多い、年齢は10歳~12歳くらいの子供ばかりだ。


皆、魔力検査をしに来ているのだろう。


(みんな、緊張した顔をしているな……。)


そりゃそうか。魔力があるのか否かも判明するわけだし。


これで人生変わることもあるだろうしな。


そう思うと、俺も緊張してきた。

待つこと30分ほど


長い行列のわりに早く順番がきた。


司祭は意外にも若い男性だった。


ちなみに個室ではなく、祭壇に並んでいるだけだった。


つまり会話は周りに筒抜けだ。プライバシーとかないのね。


司祭が優しい笑みを浮かべて、話しかけてきた。


「お待たせいたしました。本日はどうしました?治療ですか?」


「いえ、適性審査に参りました。司祭様」


「ほう、ではどの子供を審査いたしますか。見たところ居ないようですが……。」


すると、マリーシアがズイっと前に出る。


「この子ですわ。」


マリーシアは、司祭と俺の顔が向き合うように抱き直した。


「へ……?」


司祭の驚いた顔と対面する俺。


(ど、どうすればいいんだ?俺。)


とりあえず営業スマイルをしてみるか。


ニヤ~。


い…いかん、営業スマイルなんて苦手だからニヤってしてしまった。


「…………。」


「あの?司祭様?」


リカオンが心配そうに声をかける。すると、司祭はハッとした顔で口を開いた。


その声は……。


「………………プ。」


「プ?司祭様?」


マリーシアとリカオンは首を傾げる。


その瞬間、弾けたように神殿内が大爆笑に包まれた。


「ドワハハハハ!」


暫く大爆笑の大合唱だ。


リカオンたちは無言で、それが終わるのを待っていた。


「ははは!これはお腹が痛い。ありがとうございます。」


「ありがとうございます?」


「面白いジョークですね、私。こんなに笑ったの初めてです。」


神殿内は、今も笑う声で満たされている。


なんだか、むちゃくちゃ笑われて、恥ずかしくなってきたぞ。もう帰りたい……。


「あの。信じられないのは理解できるのですが。真剣なのです。」


「え?」


司祭は、そこでお前本気か!?って顔をした。


周囲の笑い声も収束していく。


「ですから。この子の適性審査をして欲しいのです。本気で言ってます」


(リカオン……。お前すげーーな。この雰囲気の中で立派だよ。お前たしか20歳くらいだったよな。父として責任を果たそうって言う覚悟が伝わってくる。)


「お父さん、我が子の才能を大きく見積もってしまうのは良くあることです。」


「はぁ……。」


リカオンはうんざりした表情だ。


「この子は見たところ赤子ではないですか。ご冗談が過ぎますぞ。」


次第に司祭の声が固くなっていく。少し怒ってる?


そこで、マリーシアが前に出てきた。


リカオンは、マリーシアと顔を合わせると頷き合う。


「司祭様、私達はこういう者です。」


すると、マリーシアが石のような材質で出来た一枚のカードを取り出した。


「Aランク!これはAランク冒険者のカード。」


「はい、夫もAランク冒険者です。」


すると、リカオンもカードを取り出して司祭に見せた。


「間違いなく……。わかりました。Aランク冒険者が言うのです。何か理由があるのでしょうな。」


「ありがとうございます」


「おそらく無駄ですが……。そこまで言うなら審査いたしましょう。もし勘違いの場合はギルドに報告させていただきますよ?いいですか?」


しかし、リカオンとマリーシアはブレない。


「「神に誓いましょう。」」


「わかりました、、ではこちらのエンジストーンの前まで……。」


俺とマリーシアはエンジストーンと呼ばれる。巨大な水晶の前に立たされた。色は金色だ。透明では無い。


先日、俺が触った魔水晶を20倍くらいにしたような感じだ。


「こちらに、お子さんを立たせ……。いや、座らせてください。」


司祭に言われたとおり、マリーシアは俺をエンジストーンに向き合うように座らせた。


俺は巨大なエンジストーンを見上げる


(石というから大理石みたいのを想像していたが、これは……金?)


キン〇マ。そんな下らないオヤジギャグを思い浮かべていると……。


司祭が口を開いた。


「それでは、その子の両手をエンジストーンにかざしてください。」


マリーシアは、俺のところまで腰を下げた。そして、俺の目を見つめると言った。


「思いっきり」 


ニヤリ…………。


マリーシアの不適な笑みが怖かった。


ふと振り返ると、後ろでリカオンも邪悪な笑みを浮かべていた。


(お、俺は何を期待されているんだろう……?)


俺はビクつきながら、言われたとおりエンジストーンに両手で触れた。

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