第20話 神龍大戦・魔龍大戦 ※神話資料
【 神龍大戦・魔龍大戦 ※神話資料 】
今はもう絶滅した龍人族女王の話からはじまる。
名前はリリス・ドラガラム。
天才龍。
彼女は幼いときから、そう呼ばれていた。
知力、魔力、戦闘力すべてが群を抜いていた。
そして何より仲間を思いやる優しさ。リーダーとして必要な資質を持っていた。
150年の年齢を超えたあたりから、当時の龍人王よりも強い力を持つようになっていた。これは異常なことだった。
そして、500歳のときに王に認められて王座を渡される。
龍人族初の女王となった。
知能も高く、学者としての気質も持っていた。
特に魂への研究は高レベルであった。
神界の存在をいち早く発見し、次元転換装置の発明をしたことは皆を驚かせた。
この装置は、神界・魔界・天界のゲートを開錠して自由に行き来できるようになる画期的なものだった。
これに驚いたのは、誰よりも神界の住人……、つまり神達だった。
リリスは純粋な科学者気質で発明をしたまでなのだが、神々は激怒した。
神界領域に踏み込み始めた龍人族の存在に……。
やがて、龍人族は神界・魔界を闊歩し、神界への研究を開始。
これには神達は猛烈に反発した。
特に、龍人族自体を危険視する意見が強くなった。
「神界へ土足で踏み込む愚か者を殺せ。」
「龍人族は力を持ち過ぎた。危険だ。滅ぼせ。」
神々は騒ぎたてていた。
さっさと次元転換装置を破壊すれば良いのだが、基本的に神界は地上界不介入規則があり手出しが出来ない。
しかし、急進派はルールを一時的に曲げてでも地上界へ侵攻して龍人族自体を滅ぼすべきだと言う意見も強かった。
リリスは基本平和主義であり、神に目をつけられていたことは本意ではなかった。
そして、種族存続の危機を予見していた。
リリスは、とある行動に出る。
神界に出向き、交渉の場に立ったのだ。
こんなことは前代未聞なことである。
交渉は決裂と思われたが、リリスは龍人族が神に逆らわない証明として、自らの右目をくり抜き、それを神に捧げた。
【その我が右目に呪いをかけた。その右目を破壊するとき、龍人族は滅亡する。それを預ける故。判断を待っていただきたい。】
リリスの覚悟を見た神達は、次元転換装置の破壊。設計図の破棄をするのであれば、「保留」という形で龍人族に手を出さないことを約束した。
結果、交渉は成功した。
隻眼龍人女王の由来はここにある。
神はその右目を、龍人族と神の誓いの象徴として宝玉に変換した。
それから1000年もの平和な時代が続く。
神達は迂闊だった。その右目が徐々に神界の力を蓄えていることに気がつかなかったのだ。
やがて、その宝玉はとてつもない力や異能を発揮するものに変化した。そればかりか宝玉が自我を持ち始めたのだった。
すでにリリスは2000年近く生きた古龍人であったが、未来予知の力までは保持していなかった。しかし、宝玉のそれに変化が起きていることを察知したのは誰でもないリリスであった。
次元転換装置は破壊してあり手出しが出来ない。
しかし、宝玉の状態が気になる。
「神界に保存してある宝玉。それに変化の兆しがある。見せていただきたい。」
数十年に一度だけ許さる神との交信時に、神達へ幾度となく警句を促すリリスだが、神達は笑って受け入れない。
神々は、「宝玉を奪わんとするか」としてリリスを糾弾する有様であった。
宝玉が破壊されれば龍人族は滅ぶ。
神達は危険と感じればすぐに破壊するだろう。
事態は一刻の猶予も許されなかった。
やがて、リリスは宝玉がまもなく神界で何かを起こすことを察知した。
遠い神界にあっても、もとは自分の肉体の一部。何かが起きているのは理解していた。
「座していても、龍人族は滅ぶ」
そう判断したリリスは、一族の存亡をかけて神界へ戦いを挑む。
優れた龍人族の総力をあげて、こともあろうに神々に戦争を仕掛けたのだ。
次元展開装置を復活させて、神界へ龍人軍を差し向けた。
「速やかに宝玉を回収せよ。」
これがリリスの命令であった。
狙いは宝玉であることは自明の理。
神達はさっさと宝玉を破壊すれば良かった……。それで全てが終わるはずだった。
しかし、ここで神々の悪癖が起きる。
【神々は嬉々として戦争を受けた】のだ。
神々は暇であった。戦争などしたのは遥か昔であり。何か余興が欲しかった。
そこで弱者である地上界の宣戦布告である。
「地上界には行けぬが、わざわざ神界に来てくれる敵。愉快。愉快。」
龍人族の挑戦に興味をしめし、喜んで受け入れた。
宝玉などどうでも良い。
ここで神の威光を示しながら、遊んでやろう。そう思ったのだ。
今から3200年前に【神龍大戦】が勃発した。
特に、戦いの神達は嬉々として戦争を楽しんだ。
美と武の神オステリアは、その手に何百もの龍人をかけた。
龍人族は、下界では敵なしであったが神達の強さに圧倒された。
次々に優秀な龍人が討たれていく。
しかし、神々に計算違いが生じる。
本体である龍人近衛兵団が予想外に強いのだ。
近衛兵団長ヤマト・カリアースは、異常なまでの強さだった。
何度も押し返すが、ヤマト団長を先頭に神軍は押される。
驚く神達。
「このままでは、神界の玉座まで届くのでは?」
そう危惧させるまでに至っていた。
戦闘力ではリリスを凌ぐ実力者。最強の龍人ヤマト・カリアースは神々の憎悪の対象となっていた。
ヤマトは異常であった。
神をも凌ぐ力を持つ。莫大な魔法力を持っていた。
事実、ヤマトは神をも圧倒していたし、神軍と100年以上も戦い続けてこれたのは、ヤマトの力でもあったのだ。
しかし、突然にヤマト団長の死が戦場のニュースとして駆けた。
ヤマトは奸計にはまったのだった。
無敵に近いヤマトには弱点があった、それは”優しすぎること”であった。
元々が優しい気質を持っており、子供達を大事にする男であった。
神達に、その龍人族の子供達を人質に取られたのだ。
最後は子供達の盾になって絶命したとされている。
それは壮絶な最後だったと記録されている。
両手両足を切り取られ、最後は首のみになっても子供達を守り切った。
首だけの状態で数万の神軍に一歩も引かず。禁忌魔法を連発して、神々を尻込みさせるほどだった。
今一歩のところでヤマトを仕留められない神達は困った。
「何という男だ。首だけになっても我ら神に引けを取らぬか」と、尊敬の念すら抱かせていた。
最終的に上位神である「美と武の女神オステリア」がヤマトに戦いを挑んだ、しかし戦闘の神ですら、首だけのヤマトを消滅させることは出来なかった。
しかし、ヤマトは命ある者。じりじりと消耗していき劣勢になっていく。
最後は「これまで」と判断したヤマトは、せめて子供達を逃がすために壮絶な大爆発と共に死んだ。
享年250歳。
龍人族としては、子供とも言うべき年齢であった。
「ヤマト団長。戦死。」
その知らせを聞いたリリスは絶望した。
ヤマト・カリアースは、リリスの希望の光でもあったのだ。
唯一、神々と対等以上に戦える最大戦力を失ったのだ。
カリアースに次ぐ実力者は。もはやリリス一人であった。しかし、リリスは単体では神々と戦えるほどの力は無い。
カリアースの力を頼りにしていたため、龍人族の滅亡を予期せざるを得なかった。
ヤマト・カリアースが居れば何とかなる……。そう思っていたところは否定できない。
そのすぐ後、リリスの恐れは的中した。宝玉が変化し始めたのだ。
自我を持ち、手足を持って人の形を作りだした。
神達の隙をぬった宝玉は、神界から下界に降り立った。そして下界のものを殺しはじめた。人々は、その宝玉を「魔王」と呼び恐れた。
もはや神と戦争をしている場合ではない。
リリスは、戦争を中止して下界(地上界)に戻った。龍人族、龍族、人族、エルフ族、ドワーフ族と連合軍を結成。
かくして魔王との戦争を開始した。
神達は地上界不介入により追ってはこない。
魔王と龍人族をリーダーとする戦いがはじまったのだ。
【魔龍大戦】の勃発である。
長い長い戦いのなか、魔王と唯一力が対抗できる龍人族は次々に倒れていく。
「レギオンスの丘での戦い」で決着をつけようとしたが、ここで大敗北をしてしまう。
ついに、龍人族は三名となってしまった。
リリス本人
リリスの養女リーラン
リリリの養子ルードラ
この3人のみという絶望的な状況に陥った。
神龍大戦で、ヤマト・カリアースを失っていたのは痛恨であったのだ。
リリスは血こそ繋がっていないが、最愛の娘リーランを逃がすため、次元結界に彼女を逃がした。
せめて彼女だけでも生かし、龍人族の再興を狙ったのだ。
リリスと養子ルードラは、魔王と最後の戦いを繰り広げる。
地形が変わるほどの戦いのなか、ルードラはリリスを庇い戦死。
リリスは正真正銘の独りきりになってしまった。
長く生きたリリスは精神的にも弱っていた。徐々に追い込まれていく。
しかし、龍王(龍族である、龍人族ではない)・エルフ王・ドワーフ王・人王と共に戦いを続けた。ここで諦めては地上界は終わりだ。
諦めるわけにはいかなかった。
リリスは、圧倒的に劣る戦力を魔導科学で対抗した。
強力な武器の製造などを駆使し、必死に戦った。
なんとか土俵際で耐えていたが、疲れきっていたリリスはついに魔王に殺された。
希望の光であったリリスが殺されたことで、世界は滅亡間近であった。
しかし、今からちょうど3000年前、変化を迎える。
リリスが死亡した後、神々が動きだしたのだ。
ここにきて傍観を決めこんでいた神々は、やっと動き出した。
劣勢を知るや、地上界が魔王に滅ぼされた後は神界も危険と危惧したのだ。
神は地上界援助のため人族の巫女を一人送り込む。
封印と結界の力を最高レベルまで与えた人族。
レシータ巫女である。
その後、レシータは最後の龍人族リーランのいる次元結界内に魔王を封印することに成功した。
その結界は龍族の里に移設され、龍族に管理を託したとされている。
龍人族最後の生き残りであるリーランの最後を見たものは居ない。
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