第19話 勇者疑惑 ※リカオン視点

/////////////リカオン視点////////////


「ママが詠唱するから、そのままでね?」


マリーシアは、優しくヤマトに語りかける。ヤマトは水晶に手をおいてやや緊張した面持ちだ。


俺はその姿を父として、あたたかく見守っている。


(ふふ……。ヤマト。まだ水晶は光らないだろうけど、落ち込むなよ?これも勉強だ。)


マリーシアが早速詠唱を始める。


「ケントスの名において命ずる。彼の者の中に流れるる御力を顕現させよ。」


俺も、Aランク冒険者まで行った人間。生まれて半年にも満たない赤ん坊が、魔力を発動させることがないことは知っている。


ちなみに、俺が魔力を持ち始めたのは12才のときだった。


そのときは米粒みたいな明るさだったけど……。魔法使いの才能有り!ってことで親戚中が大騒ぎだった。


「顕現させよ。」


マリーシアが最後の詠唱を唱えた後。


結果は予想通りだった。


シーン……。


水晶自体は無反応だった。


「…………。」


「…………。」


空白の時間が流れる。


ヤマトは唖然としている。当たり前の結果だけど、ヤマトは信じて疑わなかったんだろう。


可哀想だが、これも経験だ。


「えぇー?」


ヤマトが呻く。


生後半年で魔力をもつはずが無い。仕方ないんだよ、ヤマト……。


しかし、そのときだった。


ヤマトは諦めなかった。


「にゅ、ぬぬぬぬ!」


何やら、水晶にしがみつくかのようにしている。


両手で力いっぱい、手の平を押し付けている。


おお?すごいぞヤマト!ガッツがあるな!


「はは、ヤマト。力を入れれば良いってもんじゃないぞー?」


ヤマトは負けず嫌いなのかも知れない。


「ふぬぬぬぬぬ!ににににい!」


まだ続けるヤマト。まるで、ここで魔力を発動させないと死んでしまうかのような

必死の形相だ。


なんか、可愛いな。あとで抱っこしよう。


「ヤ、ヤマトー?そろそろ……。」


そのときだった……。


「あ!あなた!!水晶を見て!」


マリーシアが慌てる声を出した。


うん?


よく見ると、水晶の中に米粒のような光が目視できる。


「ま、まさか!」


ガタン!


思わず椅子から立ちあがってしまった。


「そんなバカな!こんな小さい子に魔力なんて!」


マリーシアも驚いて、唖然として水晶をみている。


「ぐぬぬぬぬ!ぬわりゃやや!」


ヤマトはまだ頑張っている。光が灯ったことに気がついていないんだ……。


「う、嘘だろ?赤ん坊だぞ、この子は……。」


俺は正直、状況が理解できない。


そんなことが……。聞いたことがない。見たことがない!


ふと、マリーシアに同意を求めると、なぜか目を輝かせている。


「あなたー!すごいわ!すごいわ!ヤマトちゃん天才なのよ!」


お前すげーな、マリーシア。受け入れるのか。この状況を。


いや、天才ってレベルじゃないだろ。これは……。


そして、マリーシアはヤマトに「がんばれ!ヤマトちゃーん」と声をかける。


これ以上を求めてどうする。マリーシア……。


「ぬぬ!ふぬ〜!!」 


ヤマトは仕上げだ!とばかりに、声を高くあげた。


カ!


水晶が閃光を放つ。眩いばかりの輝き、燃える太陽のような輝きで光っていた。


光で肌が痛いくらいだ。


太陽の輝き!


(これは……神レベル!?)


マリーシアは、眩しすぎて顔を覆っている。俺もとても目を開けていられない。


しかし、すぐに光は消失した。


「な、なんだったんだ?いまのは……。」


パタン!!


ヤマトは気を失って、机に突っ伏していた。


「ヤマト!」 


「ヤマトちゃん!」


俺とマリーシアは、慌ててヤマトに駆け寄った。


すぐにヤマトの状態を確認してみるが、気を失っているだけで問題無いようだ。


「よ、良かったぁ……。」


ヤマトと抱きしめたまま、ヘナヘナと崩れ落ちるマリーシア。


俺も同じ気分だ。


「マリーシア。見たか?」


「ええ。見た!見たわ!すごい光だったわ!」


「ああ。あれは神レベルだ。信じられん。」


俺とマリーシアは、顔を見合わせる。


「ヤマトはもしかすると……。伝説の勇者なのかも知れないぞ。」


「凄いわ!キャー!この子は神に選ばれし者なのかも知れないわ!ママ嬉しい!」


マリーシアは満面の笑みを浮かべて、眠っているヤマトをスリスリしている。母として嬉しいのだろう。俺も嬉しい。子に特別な力があって喜ばない親はいないだろう。


ラスタリス王国には伝説がある。


【神々が選びし勇者は、南の森より立ち上がる】という、伝説だ。


もしかすると、このヤマトは勇者なのかも知れない。俺が発見したのも南の森の中だ。


「忘却人という可能性もあるか?」


「でも……、忘却人だとしても異常よ。赤ん坊の状態で神レベルの魔力なんて聞いたことないわ。」


「確かに……。」


となると、本当に勇者なのかも知れない。


俺は決意した。


「よし。神殿で鑑定してもらおう。」

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