第17話 ミヤビ・コバヤカワ
俺の話を聞いて驚くリリス。
"な、何と。「忘却人」だったのか!オヌシ!”
”「ぼうきゃくびと」?”
”あ、ああ……。知らぬのも無理は無いな。”
リリスの声は、動揺を隠しきれていない。言葉が続かない。
俺は促すように、言葉を継ぎ足した。
"あの女神オステリアが転生させたのか不明なんだけどな。”
オステリアの名前を聞いた途端。リリスは怒り狂った。
”オステリア!あの邪神め!”
”じゃ、邪神?リリス知ってるの!?”
俺は驚いた。女神オステリアをリリスが知っていることに。そして、異常なまでの怒り具合にも……。
”一応、神界の上位神になっておるがな。あれは邪神じゃ。我ら龍人族を貶めたのも奴じゃ!”
”な、何があったんだよ。一体過去に。”
”ふぅ……ふぅ!ぬぅ……。話せば長くなる。先にちょっと整理させてくれ…………。ヤマトよ。”
”わ、分かった。”
俺はリリスが落ち着くのを待った。相当な怒りだったらしく。リリスは激しく周囲を飛び回っていた。
少しして落ち着いたのか、リリスはポツリポツリと語り始めた。
”我ら龍人族とオステリアの因縁はあとで語ろう。まずは忘却人のことを教えよう。”
”う、うん。頼む。”
オステリアとリリスの関係は気になるところだが、今は優先をつけて進めたほうが良い。
”ごくたまにじゃが……。記憶を失った者が現れることがあるんじゃ。”
”記憶を……。”
”ああ。記憶喪失者は珍しくないが。その中で著しく能力が高く、強すぎるスキルを持った者たちがいる。彼らを「忘却人」と呼ぶのじゃ。”
”それが俺だと?”
”ああ。忘却人は、いつも突如として現れる。”
”突如?”
”うむ。ある者は突然に町に現れ。ある者は森に現れる……。とある者は空から落ちてきたこともある。”
(森の中って、それって俺じゃん……。空から落ちてきたら死んでしまうんじゃ……。)
ちょっとツッコミを入れたいところだが、俺は黙って聞くことにした。
”そして、皆一律に「記憶を失っている」のじゃ。不思議なことに自分の名前だけは覚えているケースが多い。”
”俺の場合。記憶はあるな。そこだけ違う。”
”うむ。そこは気になるな。道理で、ヤマトは赤子のくせに知性が高いはずじゃ。まさか35歳だったとは……。”
”はは……。ごめん。言うか言わないか迷ってはいたんだ。”
”いや、当然じゃ。そういう情報はおいそれと話すものではない。”
”ありがとう。”
リリスは本当に良いやつだな。話した相手を間違っていなかったようだ。
”しかも!ヤマトが異世界の住人だとは……。まさか忘却人は皆が転生者なのか?”
リリスは考え込むかのように沈黙した。
”………………”
”それは俺も分からないよ。俺も何故転生したのか知らないんだ”
”そうか……。あの邪神が何か狙ってやった可能性もあるのぅ。”
”それは否定は出来ない。でも何のために?”
”分からん。”
”……。”
しかし、貴重な情報だ。その「忘却人」ってやつが転生者なら、もしかすると元地球人もいるのかも知れない。
”そ、その忘却人って。どこにいるの?会えるのかな?”
”ワシが知っている限り1人いる。”
”いるの!?”
”ああ。いる。ブルーサファイア王国のギリスナールに迷い人がいるぞ。有名な話じゃ。確か名前は……。”
ブルーサファイア王国。たしか……。
俺はもっている地理知識を呼び起こす。
【ブルーサファイア王国】
俺がいる国、ラスタリス王国はラスタ大陸にある。
そこから西に大海が横たわっているが、そこを渡ると大陸がある。名をエルヘブン大陸。
エルヘブン大陸は、エルフ族の大陸だ。
そのエルフヘブン大陸を治めているのが、ブルーサファイア王国だ。
エルフはもともと魔法が得意な種族だ。
強大な力をもっている。騎馬隊や弓隊が主力部隊で、魔法剣士部隊もいる。
エルフの国、ブルーサファイア王国。
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そこまで俺が頭を回していると、リリスが嬉しそうに声を上げる。
”そうじゃ。思い出したぞ!”
リリスがその忘却人の名前を口にする。
俺はその名前を聞いて、驚くことになる。
”名前は【ミヤビ・コバヤカワ】じゃった!間違いない。”
”ミヤビ・コバヤカワ!?”
”何じゃ、そんなに驚いて。”
”い、いや……。まさかな。”
今度は俺が激しく動揺する番だった。
その名前には知り合いがいる。
【小早川 雅】
俺の日本での知り合いだ。
知り合いというよりも、家族に近い。
俺は養護施設育ちだ。そこは俺の故郷でもあり、実家ともいえる。
そこで育った仲間は、家族……そう、兄弟姉妹に近いくらいの存在だ。
彼女は俺よりも10歳ほど年下で、俺が12歳のときに養護施設を出て行ったときには2歳の赤ちゃんだった。
俺は就職して施設を出ていったが、ちょくちょく施設の手伝いに出入りしていたから、彼女が12歳まで交流は続いた。
彼女は良く俺に懐いていた。
「おにいちゃん。おにいちゃん。」と、俺のことを呼んで、俺が施設に遊びに行くと離れなかった。実際、俺のことを本当の兄だと思っているフシもあった。
そんな彼女も中学を卒業すると働きに出た。
高校へ行きたがっていたが、お金も身寄りもない雅は、泣く泣く飲食店のフリーターとして働くことになっていったのだ。
それから彼女と会うことは少なかったが。連絡先はお互いに知っていたし、たまに会うこともあった。
(最近は、連絡取り合っていなかったな……。雅……まさかな。)
日本で慎ましく暮らしていると思っていたが……、もし成長していれば25歳くらいだろう。まさか、その忘却人は雅のことじゃないだろうかと考えが拭えない。
俺が惚けていると、リリスが問い正す。
”どうした?ヤマト?ミヤビ・コバヤカワは知り合いなのか?”
”い、いや……。まさかな。ごめん、勘違いだと思う。”
”そうか?ならば良いが。”
断定は避けたほうが良い。それに彼女が死んだとは思いたくない。雅には幸せになって欲しいんだ。
俺は必至にその考えを振り払うかのように、リリスに質問をした。
”忘却人は他にいるのか?”
”さぁ……。ワシの居た時代でも一人か二人居るかどうかじゃった。滅多に現れないからのぅ。ワシが知っている限りでは、それだけじゃ。”
”そ、そうか。”
その後、俺は龍人族の歴史と、リリスが知っている歴史をすり合わせた。そして、オステリアがした最悪なこともそこで知った。
俺は龍人族にそれほど思い入れは無い。しかし、オステリアがしたことは許せない所業だった。
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