第5話 転生15日目

転生して15日目。


変化が訪れた。


どうやら、俺はこの家を追い出されるらしい。


言葉は分からないが、何やら不安な空気を感じる。


ここ数日、家の人達が揉めているのも確認出来ている。


あれは、俺のことで揉めている感じだった。


いや、家の人にいじめられているとか、そういう意味じゃないんだよ?


むしろ凄くいい人達だ。たった2週間くらいの時間だけど、この家の住人は二人とも善人だ。


交互に面倒をみてくれているし、ミルクを作って哺乳瓶で飲ませてくれたり、滅茶苦茶可愛がられていた。


こういった生活を送っていると勘違いしてしまうが、もともと俺はこの家の子ではない。


森で拾われた捨て子だ。


いつ施設や孤児院に引き取られてしまうか分かったものではない。


すごく可愛がってくれているので、大事にはされていると思う。しかし、血の繋がりがない俺をそのまま自分の家の子供にするアホがどれくらいいるのだろうか……。


養育費、自由時間、睡眠時間、さまざまなものを浪費する。


拾ったから育てよう。そんな人間は皆無だろう。そんな人いたら、俺が神認定してやるよ。


バタバタとしている家の雰囲気から何か起ころうとしていることが分かる。おそらく、施設から孤児院の人間が俺を引き取りにくるのだろう。


一体、俺はどーなってしまうんだろう。不安しかない。


////////リカオン視点///////


あの赤子に出会ってから生活が変わった。特に妻マリーシアの表情が明るい。


俺だってそうだ、毎日、家に帰るのが楽しみになっていた。


もちろん親探しは全力でしていた。すぐ村長にも捜索願いを出したし、役人にも捜索依頼を出した。さらにギルドにまでも依頼を出した。


全力で、この子の親を探していた。それでも見つからなかった。


やるだけやったんだ。


この国の法律で、親が見つからない孤児や捨て子は、強制的に孤児院に連れていかれる。期間はきっかり15 日間だ。


残念だが仕方ない。今日がリミットだ。


役人が都市部から引き取りにくる。そういう手筈になっている。


マリーシアも納得はしていないが、夫婦で決めた。あの子と離れる。そう決めたのだ……。


マリーシアは辛いのか、今朝から部屋から出てこない……。


(あの子のことを、もの凄く可愛がっていたからな。ツライのだろう。)


俺だって辛い。


仕方ないんだ……。養子にするって手もあるが……。さすがにそこまでは……。


しかし、マリーシアと俺との間には子供は出来ない。もしかして、これは愚かな行為をしようとしているのかも知れない。


あの赤子は神が与えた俺らの光なんじゃないのか?


い、いや!そんな考えをしてしまっている時点で、もはや引き取る気持ちが強いのかも知れない。


強い気持ちで、役人に引き渡さねば!


そう考えていると、あっと言う間に時間が過ぎた。


いまあの子は部屋で昼寝中だ、マリーシアは

まだ部屋に閉じこもっている。


リン!リンリン!


玄関の呼び鈴が鳴りだした。


「来たか……。」


さて……辛い仕事だが、サッサと終わらせて、今日は酒飲んで寝よう。


こういうのは勢いだ。


そう思い。玄関に役人を迎えにいった。


玄関扉まで迎えにいくと、くたびれた中年役人が気怠そうに立っていた。


「こんにちは。お疲れさまです。中央管理部のかたですか?」


とりあえず、丁寧に挨拶をしてみる。


「ああ、サールと言う。これが身分証。さあ、さっさ終わらせるから、とりあえずその赤子を見せてもらおうか。」


「は、はい。まずはうちに入ってください。」


「ふん。」


ず、随分と横柄な態度だな……。


まぁ、中央部の役人なんてこんなもんか……。


一抹の不安を覚えながら、リビングフロアへサールという役人を通した。


サールはリビングを一周みると、俺に向かってアゴを突き出して睨みつけてきた。


「あ、ああ。わかりました。いま赤子を連れてきます。」


俺は、赤子が寝ている部屋に向かった。


二階の角部屋だ、マリーシアと結婚したとき、この家を建てた。


実は設計段階から、この部屋はいつか二人に子供ができたとき、子供部屋にしようと決めていた部屋だ。


ドアの前に立つ。気合を入れねば。


「ふー……。早く終わらせるんだ。冷静に、淡々と処理するんだ。感情に流されるな。何、簡単な仕事だ。子供を渡すだけだ。」


自分に言い聞かせるようにそう呟く。


そして意を決してドアを開く。


「!?」


ドアを開き、目の前の光景に俺はたじろぐ。


マリーシアが、眠っている赤子の頭を愛おしそうに撫でていたのだ。

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