第一話 ピエロ

「ようこそ、夢願うピエロたちよ」

部屋の真ん中に、いつの間にか人が立っていた。その人の姿は、言葉通りピエロだった。肉体の色は真っ白で目の周りに赤いポンポン、鼻は黄色かった。服も、よくみるピエロの物だった。背は僕たちと同じぐらいで、顔立ちは……どっちでも言えるけど、かわいい男子っぽい物だった。

「ピエロ?」

肌がこんがり焼けている男子がピエロの姿をしている人を睨みつけていた。

「そうです。お前たち、中途半端な存在じゃないですか。たいそうな夢だけを抱いて、将来挫折して消えてなくなる予定のピエロじゃないか」

「は? だれが中途半端だ?」

こいつは何を言っているんだ? ピエロの姿をしているのはお前じゃないのか? そうツッコミたかったけど、さっきの男子は侮辱された事が気にさわったらしい。

その男子はピエロの姿をした人の胸ぐらをつかんだ。

「今からルールを伝える」

ピエロはその男子が掴んでいた手を軽々と払い除けた。

「ここは、お前たちの夢の中です」

自分の頬を試しに強く引っ張ってみた。でも、依然と同じ場所を立ち続けていた。

「一年間、お前たちに最強の環境を与えてやる。それぞれの夢を叶えるためのな。各々の夢に伴ったお前たちの部屋を用意してあるから、そこで自分磨きをしろ」

「えっと、ちょっと待ってくれる?」

そうぼそっと、色白の女子が呟いた。

「今って夢の中なんだよね? なんでこんなに流流に話せたり、意識もはっきりあるの?」

「……今ははっきり言えない」

ピエロは、さっきの男子に対してよりかは易しい語調でそう言った。

「ポイント公開」

ピエロがそう唱えると、僕の右側にある壁にそれぞれの名前と数字が映し出された。


KAIRI 3

YUMI 3

KUKIKO 2

YURI 1


「これはお前たちの、ポイントだ。ポイント……っていうよりかは、夢実現の指標だ。この数字が、5、になったら、お前たちは大物になれる」

「なれなかったら? 罰ゲームとかあるの?」

さっきの女子とは違う、少し太っている女子がそう聞いた。彼女は怪訝そうな表情をずっと浮かべている。

「何にもないよ。それに、一年経ってここにこれなくなっても、現実で頑張れば、大物になるんじゃない? でも……こんなにすばらしい環境で大成できないんじゃ……って事です」

いきなり変な場所に呼び出されて、いきなりたくさんの他人と出会い、いきなり変なルールも聞かされて、僕の脳内情報が追いついていなかった。

いや、何よりも困惑した事として、周りのみんなが慌てていなかった事だ。こんなイレギュラーな状況なのに。

「各部屋にあるベッドで横になると現実世界に戻れるから、じゃあよろしく」

そう言って、ピエロは姿を消した。

「あのー、よろしく」

色白の女子が、小さく言った。肌が焦げている男子と少し太っている女子は返事をせずにそれぞれ、指定されている部屋に向かった。

「よろしく。名前は?」

「由美! あなたは?」

由美、は微笑んだ。さっきあの二人に冷たくされたから、僕に反応してもらって嬉しかったのだろう。

「ゆうり」

名前を言った瞬間、ずきっと痛みが走った。僕、1ポイントしかないのか、やばいな。

 でも、

「じゃあ、僕も部屋に行ってみるね」

ここは、本気の人達が集まっている。

心地よい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

正夢かピエロか 春本 快楓 @Kaikai-novel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ