第3話

 ナナイロ商店街は、都会にある町のひとつだ。

 駅を降りてすぐに広がる商店街と、その奥にあるサブカル専門のお店が特徴的だ。

 そのお店を抜けると、ナナイロ高等学校がある。

 その屋上で、ゆずはお昼ご飯を食べていた。

「う~ん、今が旬のエビフライ、トレビア~ン」

「旬って、大事なものなの?」

「うん。旬の食べ物って、一年に一回しか食べられないから」

「ふぅん」

「私が80歳まで生きるとしても、後たった65回しか味わえないんだよ」

「時間を数えるなんて、人間は器用だね」

 パクパクと銀色の弁当をつついているゆずを、端末のエンジェリアがじっと観察している。

「それにしても、ガケブッチを操ってる人、見つからないね」

「タチの悪いやつは、表層化せずに深部で腐っていくものだから」

「一生懸命、探してるんだけどなぁ」

 嘆息するゆずに、エンジェリアは鋭いナイフのような言葉を投げる。

「一生懸命がんばったから、誰よりも努力したから、一滴でも多くの汗を流したから、だからうまくきっと上手くいくなんていうナイーヴな考え方は捨てな、ゆず。人間の悪い癖だ」

「厳しいなぁ」

 ふとエンジェリアはそっとゆずの膝の上に戻る。

 階段を上る上履きの音が聞こえ、屋上への扉が開かれた。

 長い黒髪に細い体つき。女子らしい華奢な腰に膝下までのスカートを履いている彼女は、屋上を見渡すと、すぐにゆずへ声をかけた。

「ゆずさん?」

「あれ、委員長? どうしたの?」

「どうしたのってあなた……」

 小首をかしげるゆず。

「お昼休みが始まってすぐにこんな場所にひとりで……心配するでしょう?」

「あ、ごめん。その……は、離れた場所にいる友だちに、通話もしたかったから」

「ああ、そうなの」

 ほっと胸をなでおろす委員長。

「でも、あなたはナナイロ高校の1年2組なんだから、近くの友人も大切にしてね」

「はいほー」

 ゆずの言うことをすべて信じた様子の委員長は、用件だけ告げると一礼して去っていった。

「あの人、わざわざゆずを探しに来たのか」

「うん。学級委員長って言って、クラスをまとめてる。良い人だよ」

「表面的には平静を保っているやつほど、ギリギリを抱えているもんだ」

「その心は?」

「読んで字のごとくだよ」

 エンジェリアは、じっと目を細めるかのように、委員長が出て行った扉を見つめた。

「ああいうやつが、ガケブッチになるんだ」

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