第4話
「ゆずちゃん! 取れたてのかぼちゃだよ。持っておいき」
「あ、ゆずちゃん、ゆずちゃん! イキのいい鮎が入ったんだ。食うだろ?」
「ゆーずちゃん。マンゴーあるわよー」
町中の人たちから声をかけられて、買い物袋いっぱいに食べ物を下げるゆず。
「えへへ~、今日の晩御飯はかぼちゃの煮っころがしに、あゆの天ぷらに、デザートにはマンゴー♪」
「ん? 晩御飯は君の肉親が作ってくれるんだろう?」
「それはそれ、これはこれだよ」
「そういうもんか」
端末に向かって話しかけるゆずへ、ローファーの踵を鳴らして、制服姿の少女が駆け込んだ。
赤みがかった茶髪に、細い体型。
その子が、細く鋭い目を細めて、そばかすのついた顔を不機嫌そうにしている。
「ちょっと、ババア。タダで商品を渡すな!」
「あら、おかえり、ミズハ。いいじゃない。ゆずちゃんはウチの看板娘なんだから」
「ただでさえロクな稼ぎにもならねぇ小売業なのに……」
「うるっさいねぇ、あんたは」
そのやり取りに、ゆずが割って入ろうとする。
「まぁまぁ、ミズハちゃん」
「うっさい! このワガママボディ!」
「ワガマ……っ!?」
あんぐりと口を開けたゆずへ鼻を鳴らして、ミズハは果物屋の奥へとどかどかと歩いて行った。
「へぇ、彼女もなかなか強い心を持っているね」
「つ、強すぎて私の心が傷つきそう」
「君のハートはそんなヤワじゃない。僕が見込んだ人材だからね」
「ちょっとは労わってよう」
ゆずがそうぼやいたとき、一筋の風がゆずの頬を撫でる。
その風は肌を刺すような鋭さを持っていて、すれ違う人々を吸い込むように引き込む魔力を持っていた。
いつも味わっている、不吉の予兆。
ゆずは、風のしたほうを、はっと振り返った。
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