第2話

 人間は心が壊れても肉体が生きていれば生命活動は続くが、肉体が壊れると生命活動が終わる。

 ここ人間界は、物質に重きを置いた世界である。

 対して、ガーデン・ピュアは精神に重きを置いた世界と言える。

 この世界では肉体の破壊は死を意味せず、精神の破壊こそ死を意味する。

 よって、ガーデン・ピュアでの戦いは、攻撃を当てて肉体を損壊させるよりも精神を崩す攻撃が主となる。

「ガケブッチィ!」

 黒い悪の怪物、ガケブッチが吠えると同時に、高カロリーな弾幕が展開される。

 肉体ではなく、心を摘む攻撃。

 百数発の『じゃがいもの弾丸』がガケブッチの頭上に扇のようにずらりと展開される。じゃがいもはその皮さえ余すことなく柱状に形を尖らせ、どこからともなく溢れ出した沸き立つ油によって、じゅわじゅわとフライされる。

「フライド・ポテト……!」

 ごくり、と魔法少女ゆずの喉が唸る。

「じゃがいもだけで100gあたり約60kcal。フライドポテトになれば250kcalを超える。もちろん100gなんてあっという間。マクドのMサイズポテトならひと箱500kcalにもなる」

 マクドどころではない。

「こんなの、じゃがいも畑の流星群だよぉ」

「ほら、ゆず。おバカなこと言ってないで集中して」

「お、おバカじゃないもん」

「耐えて」

 ばしゅしゅ、とじゃがいもの弾丸が、ゆずのふっくらとした体に降り注ぐ。

「あう、ぐうっ!」

 ゆずの悲鳴が上がる。

「迸る脂の奔流……! 噛み締めるほど甘く濃厚な旨味とボリュームが強烈に圧し掛かってくる……!」

 何十、何百のポテト弾幕を食らい切り、そして、ゆずの体が緑色に輝く。

「……貯まった!」

「行け、ゆず」

「う、おぉぉ……! どすこーい!!」

 繰り出した張り手の先からビームのようなものが放出され、ガケブッチを貫く。

 ガケブッチは絶叫の後に細かい粒子となって消えていった。

「……」

「……」

「どすこいじゃ締まらないね。何か技名でも考えようか」

「そ、そうだね~」

 ゆずが変身を解くと同時に並行世界の境界から戻り、元の活気あるナナイロ商店街の風景が広がる。

 ガケブッチが現れる前と同じ、平和な空気。

「君には勝ってくれなきゃ困るからね。このナナイロ商店街に蠢く、正体不明の黒幕を探すために」

「うん。動いたらお腹すいてきた」

 動かなくなった携帯端末に、ゆずはガッツポーズをするかのように腹を叩いた。

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