32話 過去
夏休みが始まり、しばらく凛はゆっくりとした時間を過ごしていた。
毎日コツコツ宿題をしたり、美咲とショッピングをしたり、父親と釣りに行って何も釣れずに帰ったり。
そして今日はいよいよ生徒会の仲間達と遊びに行く日、優也と一緒に当てた華の都月瀬旅館のチケット。
「お待たせ~」
凛は既に集まっている3人の方へ駆け寄る。
朝8時発の電車に乗り、降りてからは旅館直通のバスを使い昼頃到着予定となっており、少し長めの移動となる。
「それじゃ行こうか」
4人は駅構内に入り改札を通ってホームへ向かう、実のところ凛は電車に乗ったことがほとんどない、遠出も滅多にしないので1人だけとても緊張しているのだ。
「よく満員電車とか見るけど、結構空いてるね?」
電車に乗り凛が優也に小声で尋ねる、周りを見渡してもいるのは自分たちを覗いて5人程度。
「それは都会の方、ここはそうでも無いよ」
「橘くんは行ったことあるの?」
「ない」
凛は少し安心した、自分一人が田舎者(別に田舎に住んでる訳では無い)のような感じにならないでよかったと。
「ずっと聞きたかったんだけど、櫻田は中学生の時も生徒会長やってたのか?」
優也の言葉に凛が戸惑う、病気であった頃のことは教師など以外には誰にも話してはいないため、小、中学校には通っていたことになっている。
どう答えたものかと迷っているうちに優也が空気を読み。
「いや、話したくないならいいよ」
「あ、あぁ……んー」
正直話してもいいと思っていた、優也だけじゃなく生徒会のみんなにも、けれどもそれが弱みになれば果たしてそれは生徒会長として正しいのか、大切な人に隠し事をする人間生徒会長として間違っているのか、そんな葛藤が凛の中にはあった。
「いつか……話すよ」
「そうか……」
それ以上優也は何も言わなかったので凛はそれに甘えることにした。
その後、電車から見える景色を堪能しながら夏休みの宿題の話や、休み明けの体育祭の話などをしているうちに目的の駅へ到着した。
「ここからはバスですよね!」
「だな、あと10分くらいだ」
旅館への直通バスの乗り場へと向かう一行、凛の頭の中は優也にどうやって過去のことを話すかでいっぱいであった。
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