31話 おかえり
菜乃葉の兄優也は明るく、元気で、何事にも全力であった。
「お兄ちゃん!あそぼ!」
「いいぞ、そういえば陽斗が秘密基地をつくったって言ってたな、一緒にいこうぜ!」
兄は勉強も遊びを誰よりも楽しんでいた、そんな兄を菜乃葉は尊敬していた。
しかし、兄は変わってしまった。
陽斗が亡くなってからは部屋に引きこもりがちであり、部屋から出たと思えば何日も帰ってこなくて、警察が家まで連れてくるなんてこともあった。
「嘘だよ……お兄ちゃんがそんなこと!」
母親から告げられた衝撃の事実、まさかあの兄が万引きなんてするはずないと菜乃葉は泣きながら母親に訴えた、しかしその日の夜に父親から怒鳴られている兄を見て本当なんだと絶望した、そして深夜になって、兄が外に出ようと靴を履いているところを捕まえ、菜乃葉は聞いた。
「お兄ちゃん、私はお兄ちゃんが万引きなんてしてないって思ってから大丈夫だよ!」
兄は特に気にする様子もなく靴を履き立ち上がる、そして菜乃葉の方を向き。
「あぁ、そう……じゃあそういうことにしとけよ」
菜乃葉は驚愕した、久しぶりに見た兄の表情は今までで見たことのない表情であったから、優しさも、明るさもなにもない、ただただ悲しそうな顔。
「嫌だ……返してよ……私の…………」
静かな玄関で菜乃葉は泣き崩れた。
***
「お兄ちゃん~アイス買って……」
兄がテレビの前に突っ立ってる、桜花症候群についてのニュースが映し出されているテレビを見て。
「お兄ちゃん?」
「……なの?帰ってたんだな」
「うん……どうしたの?」
兄は菜乃葉の方に近づく、ゆっくりと……表情を一切変えずに、そして。
「ぉ……お兄ちゃん?」
優しく頭をなでる、たった一言「ごめんな」と言い。
「俺はいろいろ変わっちゃったけど、なのはずっと変わらないまま俺とはなしてくれたよな、どうしようもなく最低になった俺と」
「当たり前だよ、家族だから……もう、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫……ずっと心配かけたな」
菜乃葉はそれを聞いて我慢できなくなり、涙を流した。
「よかった……」
兄にそっと身をよせる、そんな自分を兄はただ撫でていてくれた。
「色んな人に迷惑かけて、なさけない兄だけど、ちゃんと変わるから……前よりもちゃんと」
「うん」
兄から離れて涙をぬぐう、そして見上げると昔のように優しくて明るい兄の顔があり、また泣きそうになる。
「おかえり……お兄ちゃん」
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