30話 橘優也

 テレビに目を向ける、映し出されたニュースは自分を捻じ曲げた原因ともいえる病気についてだった、未だ原因不明の桜花症候群は優也から大切な親友を奪ったものである。


「まだまだ時間はかかりますが、私は絶対に原因を解明させます」


 桜花症候群になる人は稀である、患者に共通性があるとすればまだ幼いころに発症するということ。


「さて、そんな桜花症候群ですが治った後に起こる後遺症について段々とわかってきました」


 優也はコーヒーを飲む手を止めた、桜花症候群については優也自身かなり調べていたことでもある故、一言一句逃さず聞こうと耳を澄ませる。


「治ってから数年ほどは特に目立った症状はないのですが、ある日徐々に四肢の能力低下が起こることが明らかになりました、これは後遺症というより再発の予兆とも私は思っています」


 発症が稀であるのと完治者が少ないということ、今説明されていた四肢の低下も桜花症候群とは関係ないともいえる、一部の界隈では幼いころに発症するという共通点から青春を奪う病気とも言われている、まともに教育を受けられなかった人間が社会にでれるのか、完治なんてするのか、そういった疑問が度々上がる。


「……」


 優也ももちろんその手の疑問を見たことがある、桜花症候群の発症者は回復者だろうが若くして亡くなる傾向がある、もし親友の陽斗の病が回復して普通に過ごせるようになったとして幸せになれたのだろうか、そんな考えても仕方ないことに悩んだこともあった、そしてまた考える、もし……陽斗が病気にならずに今も生きていたら、自分は昔のままだったのかと。


「変わらないとな、いい加減」


前みたいに色んなことを楽しんで、全力でやれば世界は色を変える、だから。


 親友の分まで人生を楽しみ、墓前で笑って会える日を信じて。


 橘優也は変わろうと決意した。






 

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