29話 もしもなんてない

 福引で旅館のチケットを手に入れた翌日、放課後の生徒会室で優也と凛は美咲にチケットをプレゼントした、渡された美咲は凛に抱き着いて泣いてしまった。


 ありがとうと何回も口にする美咲の頭を優しく撫でながら良かったねっと言う。


「しかし凄いですね!1等賞なんて」

「私と橘くんに不可能は無い!」

「橘くんもありがとう、嬉しいぉ……」

「名前を見た時思い出したんだ、福引であったなって


 まだ凛に抱きついている、というより凛が美咲を抱いて頭を撫でてる、と思いきゃ髪であそび始める。


「4人行けるみたいだし、みなさんで行きましょう」


 美咲がそう言い優也も凛も頷く、しかし理沙は不思議そうに「私も行っていいんですか?」と尋ねた。


「当たり前だよ!友達だもん」

「い、行きましょう!美咲先輩と花畑のツーショット楽しみです!」


 こうして夏休みに4人で出かけることになった生徒会のみんな、美咲が理沙と一緒に旅館のサイトを見て盛り上がっている、そんな2人を見て凛と優也は目と目で

「大成功」と伝え合い、頷いた。


***


 テレビをつける、凛の目にその文字が映し出される。


「桜花症候群……」


 テレビのニュースで医療の研究者たちはいまだに原因を解明できていないと説明されている、自分の人生の一部を奪った病気、もし桜花症候群になってなかったらなんて妄想を嫌って程凛はしたことがある。


 母親がテレビのチャンネルを切り替える、固まっていた凛は電気ケトルのランプが消えていることに気づく、ココアの粉が入ったマグカップにお湯を注ぎかき混ぜる。


「夏休みまだかな……」


 カレンダーの日付は7月19日夏休みは24日から始まる、高校最後の夏休みは特別なものになる、そんな予感を凛は感じていた。


 

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