28話 奇跡

 落ち込む美咲を理沙が慰めながら帰って行く、優也は帰りの支度をしている凛に声を掛ける。


「今日、寄り道してかないか」


 前までは話の延長的な感じで一緒に帰ることが多かった2人だが、最近では何もない日でも一緒に帰っている。


「いいけど……どこ行くの?」

「ショッピングモール」

「え」

「ショッピングモール」


 凛は少し悩みながらもスマホを操作した後、いいよとすこし嬉しそうにいうのだった。


***


 春華高校からショッピングモールに行くにはバスを使うことになる、2人の家は学校から徒歩圏内なので少し遠めの寄り道になる、実は数時間前まで寄り道の予定なんて優也にはなかった、しかし美咲の落ち込んだ表情をみて一つ賭けてみようと思った。


「これって」


 ショッピングモールの2階の隅で行われている福引、モール内の買い物であつまる券一枚で一回チャレンジできる、そして凛は1等の内容をみて驚いた。


「華の都 月瀬旅館……1泊チケット」

「しかも4人用だ」

「これのために来たのね!」


 凛は嬉しそうに言う、今にも飛び跳ねそうだ。


「でも運だ、俺の財布には3枚入ってる……凛は持ってたりしない?」

「んとね……1枚だけなら」

「なるほど、じゃあ2回ずつだな」


 凛はうんと頷く、先に優也が女性の店員に福引券を渡す。


「はい、2回ですね」


 抽選機のハンドルを強く握り、念じながら回す……しかし出てきたのは白い球、すなわち。


「はい、6等のポケットティッシュです」


 1等の赤色の玉ではない、優也は再びハンドルを握り2回目に挑む

 

「次こそ……」


 先ほどよりも強く念じて抽選機を回すが、出てきたのは先ほどと同じ白い球。


「あら~残念!」

「悪い櫻田」

「大丈夫よ、私は生徒会長になれるほどの運の持ち主だよ!任せて」


 突っ込みたいところがあった優也だがいったん見逃し凛を見守る、緊張した顔でハンドルを回す凛、目を強く瞑っており優也にも届きそうなくらい強い当てたいという気持ち、ガラガラとでかい音をたてて回り3回転程したところで球が出て来た。


「あ!おめでとうございます!」

「お?」

「3等の卓上加湿器です!」


 凛はガクッとしてしまった、あまりうれしくなさそうな顔で加湿器の箱を受け取り、次に挑もうとする。


「……最後だよ私!」


 手が震えている、表情も焦っている、美咲のことを大切に思っている凛だからこそより力が入っている。


「っ!」

「緊張しすぎだ」


 そんな凛の手を優也が握る、凛は驚いた後少し照れる、そしてそのあとにいつもの落ち着いた表情になる。


「私たちは双狂者だものね!」

「その呼び方、好きじゃないな!」


 凛と優也で抽選機を回す、無機物に想いなんて伝わらないかもしれない、でも大切な誰かを思う気持ちはきっと奇跡を起こす、2人はそう信じていた……だからこそ。


「お、おめでとうございます!一等賞の華の都月瀬旅館一泊チケットです!!」


 神様は答えてくれたのかもしれない。


 


 

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