26話 枝に触れた手


「一目見た時から好きでした!付き合ってください」


 屋上で理沙と向かい合い藤原が告白する、理沙は困ったようにどうしようかとうつむいている。


「ごめんないさい、あたし……今は誰とも付き合えない」

「そうっすか……」


 優也は初めて人が失恋するのを見た、そもそも告白自体初めて見たのだが。


「こうしてると秘密の組織みたいだな橘」

「なんで俺まで」


 黒川と2人で屋上のドアの隙間から様子を見ていた、結局優也は藤原の告白の内容は考えず、美咲の言うように自分の気持ちをありのまま伝えろと言った。


「しかし、俺と同じ結論に至るとはな」

「お前も藤原に告られたのか!?」

「馬鹿かお前は?依頼の答えだ」


 あぁなるほどと思い冷静になる優也、同じ結論ということは黒川はもとより解決策を用意していたというわけだ。


「どうしてわざわざ俺に」

「いやただ、生徒会書記の実力が知りたかっただけだ」

「大したもんじゃなかっただろ」


 黒川は卑屈な優也を見て表情を変え首を横に振る。


「櫻田凛は言っていたぞ、橘がいなければ自分は生徒会長にはなってなかったかもと」

「ほんとかよ」

「見ていないのか?このまえ新聞部が取材に来てただろ」


 黒川の言う通り、優也は取材の乗った記事を見ていなかった、そういえば新会長へのインタビューは別にやると言っていたなと、あの凛がどんなことを言っているのか気になってきた優也は、黒川と別れて新聞部前の掲示物を見に向かった。


***

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私にとって生徒会長は憧れでありました、今こうして新会長という形で紹介されていることを光栄に思います、突然ですが皆さんは生徒会長とは何だと思いますか?他者を導く存在、生徒の模範となる存在、もしかしたら偉そうな人って思ってる人もいるかもしれませんね。


 私は今年、生徒会長としてその答えを探したいと思います、いつか答え合わせをしましょうね。


 それじゃ最後に私の頼れる仲間を紹介するね


 副会長の田中美咲ちゃん、紅茶をいれるのが上手なの、それに可愛いし真面目だし、きっとみんなの相談にも親身になって聞いてくれます。


 会計の木下理沙ちゃん!明るくてちょっと天然だけど、頭はすごくいいの!私は理沙ちゃんと話していくうちに、こういう子が天才っていうのかな?って思ったりしました。


 最後に書記の橘優也君!みんなもしってる通り、私とセットで双狂人なんて呼ばれている人、私はこの名前気に入ってるけど本人はそうじゃないみたいだね?


 私が会長を目指そうとしてる時に一緒に歩いてくれたの、普通なんて言っても馬鹿にされるだけなのに、私が会長になれたのは彼のおかげでもあります、ありがとう。


 困った時はいつでも頼ってください、みんなの力になります。


 生徒会長 櫻田凛


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 凛はきっと、誰よりもこの学校を、生徒会を愛しているんだろう。

みんなを見守る、まるで桜の木のように高いところから。


 自分のことを思ってくれる人がいる、凛だけじゃない、美咲もきっと理沙も、なのに自分はどうして彼女たちを遠ざけているのだと、このままなんとなくで過ごしていちゃいけなんだと、そんな気持ちが芽生え始めた。


 大切なものを作ろう、大切なものが消えてしまうなら、消えないように守ればいいんだと。


「一番最初に、手を伸ばして掴むのはだ……櫻田は」


 誰にも渡さない、そう思い始めた時に消えた過去のトラウマは人の想いや命よりも脆いものであった。


 

 

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