25話 桜は見上げるものである

 理沙に惚れた藤原という男のために優也は今、告白の内容を考えている。


 藤原の希望によるとロマンチックで熱いやつがいいとのこと、正直優也はその条件を聞いた時笑いそうになった、とてもロマンチックなど似合うような男には到底見えなかったからだ。


「てか俺告白したこともされたこともないんだが」


 今更になってそんなことを思った優也は経験のありそうな人に電話してみることにした。


「橘くん?どうしたんですか?」


 電話の相手は美咲、間違いなく沢山告白されているだろうという偏見で選び、依頼の件を手短に伝えて意見を求める。


「ロマンチックかぁ……私がされた中にはそんなのはなかったかもです」

「そうか、ロマンチック……俺には君しかいなんだ!!みたいな感じか」

「うーん、ちょっと違うような」


 優也はますます分からなくなった、いっその事ネットから引用してしまう手もあると考え、試しに検索をしてみる。


「うっ……」

「ど、どうしたんですか?」

「いや気にするな、光の世界にやられた」


 実際にこんな告白が出来る奴がいるなら尊敬すると優也は思った、真似はしたくないとも。


 そもそも告白するような勇気が自分にはない気もしてきた。


「でも、私がもし告白されるなら……やっぱり本人が考えたもの、というよりありのままの気持ちが聞きたいかな」

「そっか、そういうものなんだな」

「橘くんは誰かを好きになったこととかない?」


 美咲の問いに黙ってしまう、ないわけじゃない、それが恋愛感情なのか分からない、もしかしたら分からないふりをしてるだけかもしれない。


 気持ちを伝えてしまえばより相手に依存する、一緒に居たいと強く願い、求めて、そして跡形もなく消えてなくなる、かつての陽斗のように……きっと愛した人を抱き寄せても散っていく桜のように遠くへ消えてしまうだろうと。


「あるのかもしれない、いまも」


 いつもまっすぐだけど素直じゃない、なんとなくで過ごしている自分とは違って毎日を全力で生きている、そんなところにきっと優也は惹かれた。


「櫻田が好きなんだと思う」


 美咲は黙っていた、電話越しに伝わる緊張、声に出した気持ちを本人に伝えられれば何かが変わるかもしれない、環境も自分も。


 でも優也は知っている、桜は見上げるものなのだと、どれだけ手を伸ばしても掴むのは一枚の花びら、風に吹かれればどこかへ消えていく儚いもの、それはまるで人の命そのものであると。


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