22話 踏み出せず、踏みとどまる

 部活動の設立届を提出した美咲たち、顧問には三島美由紀という教師が付くことになった、凛、優也、美咲の担任でもある、ものぐさで適当な女教師である。

口癖は「私みたいになるなよ」である。


「ここが使えるぞ」


 正門から入ってすぐ両隣の場所、もしここに花がたくさんさけば見栄えが何倍にもよくなるに違いないと美咲は確信した。


「だが一から育てるってなると大変だぞ」

「が、頑張ります!」

「まぁ美咲は真面目だし、責任感もあるし、可愛いから大丈夫だろ」

「か、可愛いは関係ないです」


 三島先生は笑いながら頑張れよーと言って戻っていった。


「まずは本とか買って勉強しないとですね」

「だね」


 植物も一つの生命であると考えるならばしっかりと責任もって育てるべきである、美咲はまだまっさらな土を眺めて想像した、未来まで大切にされるような美しい花が咲く景色を。


***


「わーーー!!」

「な、なに!」


 理沙が突然大きな声を上げる、優也はあやうく飲んでいたペットボトルを落としそうになってしまった。


「あたし今日バイトだった!!」

「何やってんだ……急げ急げ」

「猛ダッシュだよ!」


 理沙は急ぎあしで生徒会をどたどたと出て行った、残された2人はただ無言で扉を眺めている。


「ねぇ」

「ん」


 凛がすこし真面目な声音で優也に呼び掛ける。


「後悔してるの、生徒会に入ったこと」

「どうして?」

「なんとなく、橘くんは自分のこと話さないから聞くしかないの」


 優也は少し間を置いて。


「してないよ、じゃなきゃやめてた」

「そうだね」


 沈黙が流れる、優也は前よりも笑うようになったし楽しそうだ、けれども割合で言うとやっぱりつまらないという雰囲気の方が勝っている気がする、けれども最近になって凛はそれがつまらないという感情じゃないと思い始めた、彼が笑わないのにも、自分たちと距離を置く癖があるのも、きっとなに理由があるんだと。


「2つ目も順調だな」

「うん、この調子で頑張るよ~」


 優也はそうだなと言い変える支度を始めた、読んでいた本をしまい鞄を持ち上げる。


「今日は買い物当番だから」

「そっか、またね……」


 「おう」と言い静かに生徒会室を出て行く、一人になった凛は再び椅子に腰を下ろす。


「一緒に帰ろ……て、なんで言えないんだろう、私」


 ただ静かな空間に問いかける、彼女の問いに答えたのは下校を知らせるチャイムだけだった。


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