16話 芽生える想い
バトミントン部との練習試合が終わりその翌日、すけら部に美咲と由美がやってきた。
「昨日はありがとうございました!」
由美は深く頭を下げる、そんな中黒川は無言で腕を組み座ったままでいる。
「あんた何かいいなさいよ」
「納得いかぬ」
「うーぬ……」とずっと唸りながらそんなことをぶつぶつと言っている。
「あはは、まさかのラケット破損だからね」
「代わり身を用意しておくべきだったかっ……!」
そう、黒川は一回戦を負かされていたのだが盛大にラケットが折れたのだ、スペアが無かったため一回戦は棄権になってしまった。
「でも、私は黒川さんの言葉で励まされて、おかげさまで勝てました!ありがとうございます」
「気にするな、依頼をこなしたまでだ」
黒川は笑みを作り優しく言う、由美はまた一礼して部室を後にした。
「しかし、この俺が……」
「まだ言ってんのかよ」
翔馬が呆れたように立ち上がり、本棚から自前の本を取り出す、ギターの手入れをしていた音羽が立ち上がり美咲にこっそり近づく。
「田中にはわかるでしょ」
「うん……黒川くんは優しいね」
美咲は心のそこからそう思った、彼が意図的に負けたことに気づいていたから、ふざけていながらも困ってる人を助ける、そんな黒川に美咲は少し惹かれていた。
***
「じゃあまたね~」
凛が帰って行くのを見守る、今日は買い物を頼まれたらしく速足で帰って行った。
美咲も帰ろうと靴を履き替えていると。
「おや副会長」
「く、黒川くん!?」
美咲は突然呼ばれたことにおどろく、同じように黒川も驚いてしまう。
「な、なんだ……声を掛けただけだろ?」
「びび、びっくりして……その」
黒川は基本変な奴だが美咲みたいな真面目でおとなしい人が相手だと調子が狂う、その証拠に声を掛けたけど何を話せばいいか分かっていない。
「あの、ラケットの件」
「俺の羞恥を掘り返すのか?」
「じゃなくて!……わざとですよね」
美咲の言葉に黒川がびくっとする、しかしすぐにいつもの悪い笑みに変わる。
「なんのことだか」
「わかりますよ、いきなり入ってきた来た助っ人が誰よりも上手かったら不満をもつ人もいるはずです」
実際試合前の練習期間でも黒川に劣等化を抱いた生徒も少なくなかった、美咲は偶然バトミントン部の男子が黒川への妬みを影で言っていたのを目撃していた。
「副会長様がどう言おうと勝手だが、俺は普通に負けたんだ」
「そーですか、そういうことにしておきましょうか……」
最後にすこし悪そうに笑う、頑固な子をなだめるように、優しく。
「また依頼があれば尋ねるといい……まぁ」
靴を履き替えて立ち上がる、そして美咲の方を見つめいつもの笑みで。
「助けるかどうかは俺らが選ぶがな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます