15話 主役は君なのだから
春華高校のバトミントン部の練習試合の日である、黒川達すけら部は用意してもらったユニフォームに着替える、音羽と翔馬は部員から借りたラケットは、黒川はなぜか自前のものを用意していた。
「腕が鳴るな」
「ぶんぶん」
「やるからには勝つわよ」
他の部員も3人を頼りにしている、突如入った助っ人にしては動きが洗練されていたからである、実力は現在2年の実力者に匹敵するらしい。
「対戦相手はどこの高校なの?」
「山岡高校だ」
「あそこか」
春華高校と同じレベルの学校、しかしいまだに勝てたことはないらしい。
少し離れたところでバトミントン部の部長長澤由美が真剣な顔で相手高校のメンバーを見ている。
「あの子勝ちたそうね」
「負けたいやつなどいないだろ」
「まぁそうなんだけど」
そうしてお互いの高校同士の挨拶がを済ませ、試合が始まる。
黒川の出番はすぐなので準備運動や素振りを軽く済ませる、その時。
「あの黒川さん」
部長の長澤由美から声をかけられる、「どうした?」と黒川が聞くと由美は自分の試合の出番と交代してほしいと申し出た。
黒川は驚いた、由美の相手は相手の主戦力ともいえる生徒、いわばキャップテン的な存在、一番最初に由美はその生徒との対戦をやりたいと言い出したのだ、しかし今になって変えて欲しいと言うお願いはおかしいと。
「なぜ変える、戦いたそうだったじゃないか……?」
「多分、私よりも黒川さんの方が強いからです」
「ほぅ」
すけら部は2年生の実力者に匹敵する、それは他2人と黒川の平均の話である、黒川単体で見れば部長に匹敵するかそれ以上の可能性もある、しかし黒川はそれを面白いと思うような人間ではない。
「それでも部長か君は」
「っ!」
「確かに俺は強い、でもな」
黒川はバトミントン部の部員に視線を向けて言う。
「あいつらが頼りにしているのは部長である君だ、ぽっと出の俺が安心しろ、王は俺が倒す……なんて言って信頼されるわけないだろ」
「そうでしょうか……」
「俺には技術と体力がある、しかしそれ以上のものを君はもっているはずだ」
「私が?」
「あぁ、部員の応援を力に変える信頼という強さをな」
黒川だからこそ言えるくさいセリフ、しかし由美はそれを聞いてなにかを決心したような顔になる。
「というわけでお断りだ、そもそも今更変えられないだろう?だったら敵の大将は部長が倒すんだ、主役は君なのだから」
急に出て来た助っ人に過ぎない黒川よりも、ずっと信頼され続けてきた部長という存在が相手のエースを討つ、これ以上に面白い展開はないだろうと黒川は自信満々に語るった。
「しかしあんたも策士よね」
音羽が黒川に寄って来て言う、黒川が笑みを浮かべ「依頼をこなしたまでだ」と言う。
「田中美咲のもうひとつの依頼をこんなふうに達成するなんて」
すけら部への助っ人の依頼にきた美咲は部室から出て行く際にもう一つの依頼をお願いした、それは「部長の由美ちゃんに勇気をあげてください」というものであった。
「連敗続きの春華高校バトミントン部……たまりにたまった悔しさは大きな力になる、俺はそれに火をつけただけだ」
「あとは爆発するのを待つだけってことだが……そこに不要なものがある……そうだろ隼?」
黒川は満足げに「あぁ、俺は脇役だからな」と一言残し第一回戦へ向かった。
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