17話 自慢の妹1
約4年前、美咲が中学生の頃の出来事。
彼女にはミュージシャンを目指す3つ上の姉がいた、姉は決して美咲のようにおしとやかでは無かった、他人とは距離を置いて音楽にだけ夢中になっているような人で、頭もそこまで良くはなかった彼女だが、妹である美咲を大切に愛していた。
「お姉ちゃんの曲聴いたよ!かっこいい」
「でしょ!?あたしってやっぱりセンスの塊みたいな存在なんだよ」
自信満々にそう言う姉の言葉は本当だと当時の美咲も、姉である莉奈を知る誰もが思っていた。
「お姉ちゃんは誰かと音楽はやらないの?」
「あたしの曲はあたし自身が奏でて歌うから本物なんだよ」
そう、莉奈は誰かと一緒に音楽をやる気はなかった、作曲と作詞も自分で行い、路上でギターを手に1人で歌を歌う、そんな孤高な彼女が美咲の目には輝いて見えた。
「そうだ、もうすぐ誕生日だろ?お姉ちゃんがプレゼントに歌を作ってあげる、美咲だけのための歌だ」
それを聞いた美咲は目を輝かせた、「本当に!?お姉ちゃんありがとう!大好き!!」と、華奢な姉の体に飛び込み喜んだ。
しかし美咲がそれを聞くことになるのはそれから1年後になってしまう。
莉奈は亡くなってしまった、それはちょうど美咲の誕生日の日だった、路上で歌を歌っていた最中に酔っ払いに絡まれて喧嘩になり、相手の持っていた凶器で殺害された。
「嘘、うそだよ……だって、お姉ちゃんは約束したんだよ、私に……曲を……いや、いやああぁ!!」
姉の死を告げられた美咲は人生で1番泣いた、もう姉の自信満々で明るい声を聞くことも出来ない、抱きしめてもらった時の温もりも優しさも何もかも全てが失われたのだ。
それから美咲は部屋に閉じこもった、中学校にも行くことなくずっと。
***
中学3年の春、美咲は母親に連れられて駅まで行った、いつもは外には出なかった彼女だがこの日はなぜだか気が向いた、そして母親の買い物を待っている最中の事だった。
「あなた、もしかして……」
美咲の前に大人の女性が立ち止まる、茶色い髪の眼鏡をかけた若い女性、美咲の記憶にはない人物であった。
「お名前を聞いてもいいですか?」
急に名前を聞かれて驚いた美咲だったが、それも一瞬、暗い声で自分の名前を答える。
「そう、やっぱり……莉奈の妹ね」
「お姉ちゃんのこと知ってるんですか?」
「そりゃもう、頭から足先まで知っる仲よ」
美咲は先程と変ってフレンドリーになった女性に戸惑う、なんだこの人というのが第一印象。
「今時間ある?うちの施設においで、あなたに渡したいものがあるの」
「い、今ですか?お、お母さんを待ってて」
美咲はポケットからスマホを取り出し連絡を入れるか悩んでいると。
「行ってきなさい」
買い物を終えた母親が優しい笑みでそう言ってくれた、もしかしたらお母さんの知り合いかと美咲は思った、そして女性に案内されて隣町にある児童養護施設へと向かうことになった。
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