18話 自慢の妹2
児童養護施設に着いた美咲は来客用の部屋に座って女性を待っていた、外では美咲よりも歳の小さい子たちが遊んでおり、美咲と同い年の子はその様子を眺めている、子守り役といった感じだ。
窓の外を眺めていると女性が戻ってきた、手に持っているのはCDのジャケット、そして。
「……ギター、ケース」
ただのギターケースじゃない、ビーズで作った音符のストラップがある、それは昔美咲が姉の誕生日にあげたものだった。
「あの日、莉奈はここに寄ってから出かけたの、あの子自分ケースを置いてギター抱えて行っちゃったのよ」
誰よりも姉を知る美咲だからわかる、それが本当だということを、「やばっ!忘れてた!まぁいっか」と笑う姉の姿すら容易に想像できた。
「お姉ちゃんらいしいですね」
「そうね、それと……これも」
手渡されたCDを見て美咲は言葉を無くした、ジャケットには莉奈と美咲のツーショットが使われていた、お揃いの赤い髪、美咲のおしとやかな瞳とは逆に、莉奈の瞳は鋭い、けれどもその中に確かにある優しさを美咲は感じていた、それが自分に向けられたものなんだともわかった。
「お姉ちゃん……」
「これは莉奈が帰ったら美咲ちゃんにプレゼントするって言っていたの、ギターケースと一緒にここに置いてあったのよ、渡すのが遅くなってごめんね、住所を知らなかったもので」
美咲は泣きそうになるのを堪えてお礼を言った、その後ケースとCDを持って女性に家まで送ってもらった。
***
姉が自分のために曲を作ると約束してくれた、誕生日のプレゼントとして、時間がかかったが美咲はついにそれを聴く時が来た。
タイトルは「たった1人への愛」その文字を見ただけで涙ぐんしまった美咲、PCのディスクドライブにCDを入れ、緊張しながら再生ボタンをクリックする。
優しいギターの音と共に姉の声がヘッドフォンを通して聞こえてくる、まさに美咲のために書かれた歌詞。
「会いたいよ……会いたいよ!お姉ちゃん!!」
また抱きしめて欲しい、また沢山甘えたい、髪を結って欲しい、一緒に買い物に行きたい、また隣で歌を聞きたい、美咲はそんな気持ちで胸がいっぱいだった。
姉の残したCDもギターケースも冷たく、もうこの世にあの優しい温もりはどこにもないんだと思い、胸が引き裂かれるような絶望を感じた。
再びCDのジャケットに目を向ける、ツーショットがある表面、そして裏面には。
「手紙……」
姉の手書きと思われる手紙があった。
ーーー
大好きな美咲へ
美咲のために曲を作ったよ、私が作った中でも1番の曲だ、いっぱい聞いてくれ。
私は勉強も人付き合いも苦手だから、得意な美咲が羨ましいしすごいと思う、自慢の妹だ。
でも私にだって負けてないことがある、音楽だ、美咲は音痴だからな、でも私は好きぞ。
それとお前を誰よりも愛してる、誰にも負けないくらい。
困ったことがあったら私を頼れ、泣きそうになったら抱きしめてやる、歌も歌ってやる、美咲は私の妹だから沢山甘えていいんだ。
長くなちゃったな?曲の感想聞かせてくれ、ちょっと恥ずかしいけどさ。
誕生日おめでとう美咲、大好きだよ。
莉奈より
ーーー
曲を聴いたまま沢山泣いた、曲の感想を伝えることも、甘えることももうできない、姉はもういない。
いるかもわからない神様に問う、どうして最後だけでも会わせてくれないんだと、姉はただ歌を歌っていただけなのにどうして死ななきゃならなかったんだと。
音楽を愛し、人から離れ、美咲を愛し、世界と運命に嫌われた姉。
「せめて……私が……最後まで傍にいてあげたかった!ごめんね……お姉ちゃん……!苦しかったよね?寂しかったよね?」
姉の写真に必死に問いかける、答えなんて返ってこないのにずっとずっと問い続けた。
***
何時間経った頃だろうか、曲を何回かリピートして沢山泣いたあと、美咲は部屋のカーテンを開けた、背伸びをして顔を弱い力でパンと叩いた。
「お姉ちゃん、手紙と曲のおかげで少し立ち直れたよ、学校にもちゃんと行く」
CDケースを抱きしめて明るい声で告げる、この心の傷は癒えることはない、けれども姉が今の自分を見たらきっと悲しむ、だから美咲は涙を拭い前に進む。
「私はお姉ちゃんの自慢の妹だから!」
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