10話 勝利の女神は彼女に微笑む

 床にばらまかれたカードをいそいそとはんよこ部員たちが拾う。


「まぁなんだ、落ち着け会長とその部下」


 ズレたメガネを直して冷静さを取り戻す部長、凛達は空き教室が必要ということを部長に話す。


「まともに活動している部活はともかく、はんよこ部の活動はなんというか、私的だ」

「うん、それは分かってる」


 潔よく頷く、しかし諦めるつもりは無いと堂々と言われてしまった凛はどうしたものかと優也に目配せする、はんよこ部の活動内容を遊びで片付けてしまうと反感を買うかもしれない、でもわざわざ部活を設立するほどのことでもないのは確かだろう。


 凛は顎に手を当てて考える、それからわずか数秒で何かを思いついた顔になる。


「なら勝負しましょ」

「勝負?」

「うん、そこにトランプとか将棋とかあるじゃない?」


 凛の指さすテーブルには活動で使うだろうボードゲームが沢山置いてある。


「おいおい、遊びの達人と言われた菅原部長を舐めない方がいいですよ〜」


 馬鹿にするような言い方で部員のひとりが言う、凛はそれを気にする様子なく菅原と呼ばれた部長の前に座る。


「ほら、橘くんと理沙ちゃんも」

「なるほど全員で戦うか、なら俺らもそうしよう」


 菅原が部員を手招きする、美咲は生徒会室でお留守番のためちょうど同じ人数での戦いとなる。


「全員でやった方が楽しいからね」

「随分と余裕だな」

「違うよ、楽しんだもん勝ちってこと」


ジョーカーのカードを手に取り見せびらかすようにし微笑む凛、はんよこの部員は天敵にあったかのようにビクッとする。


「勝負内容は?」


 凛の隣に優也が腰を下ろしながら聞く。


「神経衰弱でどうだ、嫌なら変えてもいい」

「いいわよ、かかってきなさい!!」

「私本気出しますよ!勝ちましょう会長!!」


 凛と理沙の挑発に菅原は薄ら笑みを浮かべてまたもやメガネをクイッとさせる、勝気な表情の2人の部員も「かかってこい」と挑発し返す。


「はんよこ部の実力を思い知れええ!!」


***


 吹奏楽の楽器の音、運動部の掛け声、そして。


「「くそおおおお!!」」


 はんよこ部員達の叫び声、楽しそうに鼻歌を歌いながらトランプを片付けている凛、勝利は生徒会のものとなった。


「生徒会長恐るべし」

 

 最初こそはんよこ部員が優勢だったが、後半は凛達が逆転していった、劣勢になりながらも凛は楽しそうに戦い抜いた。


「言ったでしょ、世界は楽しんだ人に勝利をもたらしてくれるの」

「楽しんだもん勝ちってやつですね」


 少し違う気もするが凛の運と記憶力のおかげで勝てたのは間違いない。


「負けは負けだ、部活じゃなくてもできることだからな」

「わかったよ、しかしすごいな生徒会長」


 菅原は感心したように言う、凛は当然と言わんばかりにドヤ顔を決める。


「とりあえず空き教室の件は完了だな」

「凛先輩のおかげですね!」


 留守番中の美咲にいい報告ができると思いながら3人は生徒会室へと戻った。



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