1つめ 自習スペースの設立

9話 はんよこって何?

 凛と優也は他のメンバーにもノートの内容を公表することにした、それを今年度の目標として行きたいという凛の考えに皆は賛同してくれた。


「とりあえず項目ごとにリーダーを決めましょ」


 まずは各々やりたい項目を選びリーダーとなって進めていくことにした、凛は自習スペースの設立、優也はマスコット作り、美咲はガーデニング担当、そして理紗は体育祭の強化を担当した。


 まずは凛担当の自習スペースの設立を中心に進めていくと決まり、早速空き教室の確認へ向かった。


「どこか空いてるかな……」


 教師から貰った校内図を確認する、空き教室には空という文字が書いてあるはずだ。


「ダメだ、無い」


 凛が地図の置かれた机に突っ伏してしまった、黒川達のように部活を立てた生徒が他にもいるので、現状は空き教室がないのである。


「いきなり詰んだよ?」


 どうしてくれんのと目を細めて優也を見つめる、慣れたように知らんとため息をつき再び校内図に目を向ける、春華高校は4階建ての作りであり、よくある高校といった感じの外観、中身もとくに目立ったものは無くまささに平凡そのものと言える。


 偏差値も56と低くも高くない感じである、そんな普通な高校でもあるが凛にとってはずっと夢見ていた場所、凡人がタワーマンションの最上階に住みたいと一度は思うのと同じようなものであった、まぁ彼女が見下ろすのは美しい景色ではなくステージ上からの全校生徒の姿なのだが。


「このはんよこ部ってなんだ」

「あ、それはあれですよ、反復横跳びってあるじゃないですか?あれを極める部活です」

「は?」

「反復横跳びを極める部活です」


 生徒会室に沈黙が流れる、優也は頭を回転させて考える、反復横跳びを極めて部員はどうするつもりなのかを。


「ダメだわかんね、いらないでしょこの部活」

「なんてこというんですか!!」


 べしっ!ととてもいい音が響く、恐らく壁を貫通して廊下にも響いたであろう理沙のビンタ。


「はんよこなめないでください!すごいんですから!一年に一度の体力測定のために部員たちみんな頑張ってるんですよ!」

「お、落ち着いて理沙ちゃん!」

「先輩は一度はんよこの活動を見るべきです!さぁ行きましょう!!」



***


 はんよこ部の部室は2階の左奥に存在する、今日もまた屈強な男たちによる熱い勝負が行われている。


「はいUN〇って言ってない、お前の負けだ」

「待て!今のは無しだ」

「はいはいダメでーす」


 男3人が輪を作り寝そべってお菓子をむさぼりながらUN〇をしていた。


「おい、UN〇してるぞ」

「橘くん、多分それ隠れてないよ……」

「なんのことだ?」


 理沙のいっていたのとは真逆の怠惰のよい例ともいえる光景が部室には広がっていた、もういっそUN〇部に改名しろとさえ凛は思った。


「部長だれか来てますよ」

「誰だ、俺たちは今……なっ!生徒会長櫻田凛!!」

「どうも、生徒会長櫻田凛です」


 凛を見て慌てる部員達、彼らは1年前はんよこ部を立ち上げた、何をしているのかまったく分からず、前会長も何故か放置していた部活である。


「反復横跳びしてないじゃん」

「反復横跳び?」

「反復横跳び部、略してはんよこ部ですよね?」


 あれれと理沙が首を傾げる、部員達は呆けた顔で「はぁ?」と一言。


「違うの?じゃあ一体はんよこって?」

「某野球チームが由来なんだよ、俺たちはどっちのチームが強いか、そのために日々戦っているのさ」


 生徒会メンバーは絶句した、反復横跳びも相当だが、わざわざ部活を立ち上げるほどのものなのかと。


「反復横跳びはなんだったんだ」

「玲奈会長がそう言ってたんですもん!むーー!!……言ってたんだもん!!」

「わかったわかった」


 プンプン怒る理沙を落ち着かせる凛、はんよこ部員からしたら漫才かなにかに見えるだろう、優也がそんな2人を放っておいてはんよこ部員の1人に声をかける。


「えっと、活動について聞きたいんだけど、大会とかは出てるの?」

「あぁもちろん、部費は交通費とかチケットとか」

「観戦じゃねーか」


 凛は殴りたいという悪い衝動を抑え、前会長玲奈を思い浮かべる、彼女が放置していたこの部活を自分たちが相手しなければならないなんて、凛達は前会長のマイペースさに振り回されっぱなしという訳だ。


「俺らは前会長から守ってもらってたんだ、活動内容も表向きは反復横跳びってことにしてもらってたんだ」


 部長らしき男がUN○しまいながら淡々と話す、他の部員はそのことを知らなかったのか驚いている。


「今になって廃部させるつもりか」

「玲奈先輩はなんで守ってたんだろう」


 凛の呟きに部長が黒縁のメガネをくいっとさせる、そして「決まってるじゃないか」と声を低くさせる。


「野球ファンだからだ!!l」

「……」

「お、おい何する」

「橘くんパス」


 凛が部長から奪った箱を優也に投げる、それをキャッチした優也は


「ふんっ!」


 部長のしまっていたUN○のカードを床にぶん投げた。



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