すみません、私はあなたのことを存じ上げないのですが……
朱莉とダンジョンに潜ること三時間、俺達はボスの部屋の前に来ていた。
「ふー、着いた。少し休憩してから行こうか。」
「はい。分かりました。」
俺はアーレとフローラにスポーツドリンクを渡し、朱莉はモンスターたちにお菓子をあげていた。
十分ほど休憩して、俺達は立ち上がる。
「さぁ、行こうか。」
「頑張りどころですね。」
そういって、俺達はボスの扉を開く。
少しの間があいて、ボスが現れると思ったのだが……そこにいたのは、五味山だった。
五味山は、朱莉に対して馴れ馴れしく話し掛ける。
「やっほ~、朱莉ちゃん!きょっ、今日も可愛いね!隼人なんかと一緒にダンジョン潜ってないでさ、お、俺と一緒にダンジョン潜らない!?そっちの方が、絶対楽しいよ!」
どうやら、ここのボスは既に五味山が倒してしまったらしい。
とはいっても、汚れた服を見る限り、結構時間がかかっていたようだったが。
「???」
朱莉にいたっては、目の前の光景が理解できなくて、少し混乱してしまっている。
そんな朱莉を見かねて、俺は五味山に話し掛ける。
「ごめんな、俺はいま朱莉とダンジョンに潜る特訓をしているんだ。だから、誘うにしてももうちょっと後にしてくれる「うるさい!!お前は黙ってろ!」
……今のは、少しイラっと来た。
そもそも、何だこいつ。勝手にボス倒して、特訓が台無しじゃねぇか。
ストレスが溜まってきている俺を無視して、五味山はまたも朱莉に問いかける。
「だ、黙っているところも可愛いね!僕と一緒に、ダンジョンに潜ろう!その方が、絶対に強くなれるよ!」
早口で捲し立てる五味山に対して、朱莉が申し訳なさそうに問いかける。
「あ、あの……すみません、私はあなたのことを存じ上げないのですが……」
「へ?」
「い、いや……あなたと話したこともありませんし、まず、私はあなたの名前すら知らないんですけど……」
「え?」
「それに、開幕早々私のことを口説いてきたり、隼人先輩を馬鹿にしたり……そんな人と、私は、ダンジョンに潜りたくありません……本当に、申し訳ありません。」
最低限相手のことを尊重しつつ、拒絶の意をはっきりと示す朱莉。
だが、五味山の琴線に触れたようだ。
「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!やっぱり、君は隼人に何かされてしまったんだね!」
「い、いや、何ももされてないんですけど……」
「おぉい!隼人ぉぉ!お前、俺の朱莉ちゃんに手を出しやがって、許さねぇ!こうなったら、決闘だ!」
決闘とは、マスター同士が己のモンスターたちを戦わせ、強さを競う勝負であり、基本的に、仕掛けられたら受けるのがマナーとなっている。
断ってもいいが、今の隼人は少し、いやかなりイライラしていた。
ボス戦を邪魔されたのもそうだが、朱莉に迷惑をかけていることに、なぜだが無性に怒りを感じてしまったのだ。
「いいぜ、受けてやるよ!」
「い、いいんだな!俺が勝ったら、朱莉ちゃんを解放してもらうぞ!」
「あぁ、いいぜ。その代わり、俺が勝ったらダンジョン内で俺達に絡んだり、朱莉に接近することを禁止する!」
そして、ボスの部屋で決闘が行われることとなった。審判は、朱莉が務めることとなる。ボスとの戦闘で消耗した五味山のモンスターは、五味山が回復薬で直したらしい。
「朱莉ちゃん、見ててね!僕が隼人をぶっ倒して、君を救ってあげるからね!」
五味山があふれんばかりの気色悪い声で、朱莉を救う宣言をする。
朱莉は、どうでもいいから、朱莉ちゃんと呼ぶのをやめてくれないかなと思っていた。
「両者、準備はいいですね?……それでは、決闘、開始!」
朱莉の声が、ボスの部屋に響き渡る。
それと同時に、俺と五味山はモンスターを召喚した。
五味山のモンスターは……Dランクのオロバスに、Eランクのアイアンスパイダー二体。正直、もっと強いカードが来ると思っていた。
「アーレはオロバスを押さえろ!フローラは、アイアンスパイダー二体を同時に相手取って、アーレが危なくなったら回復だ。一応言っておくが、殺すなよ?」
「おいおい、こんなやつ相手に危なくならねぇよ!」
「殺すなってことは、少しは痛めつけてもいいってことね?」
俺が指示を出すと同時に、アーレに向かってオロバスが突進していく。流石、馬のモンスターなだけあって、速い。だが、アーレの敵ではない。
「フン!」
オロバスがぶつかる瞬間、アーレは左手に斧を持ち替え、右手で腹にパンチをかました。
「ヒヒーン!?」
オロバスが地面に転がり、悶絶する。
「な、オロバス!早く立て!」
そう叫ぶ五味山をしり目に、フローラはアイアンスパイダーに対して攻撃を始める。
まず空に高くとび、アイアンスパイダーが届かないところから、火の玉を降らせる。
「ギャア!?ギチギチギチギチ……」
呻くアイアンスパイダーに、追い打ちをかけるように火の玉を降り注がせ、アイアンスパイダーを炙っていく……こいつ、ドSの才能があるかもしれん。注意しなけらば。
そんなことを考えているうちに、オークが立ち上がったオロバスの顔面に拳を叩き込み、五味山に向かって吹き飛ばす。
「お、オロバス!?」
もう、五味山に勝ち目はないだろう。そう判断した朱莉が、勝敗を決する。
「この勝負、隼人さんの勝ち!」
「はっ、口ほどにもなかったな。」
「こんな歯ごたえないんだったら、ボスと戦った方がましだったよ……」
魔物たちが愚痴を漏らす中で、五味山は蹲っていた。
そんな五味山に、俺は必要な事を伝える。
「この決闘は俺の勝ちだな。約束通り、お前は今後一切俺達に関わること、朱莉に近づくことは禁止「嘘だ!」
またかよ。今日でこいつに台詞キャンセルされたの、二回目だぞ。
そんな風に心の中で愚痴を漏らす隼人に対し、五味山がヒステリックな叫び声をあげる。
「お前、ズルしやがったな!?でなけりゃ、正義の俺が、悪のお前に負けるわけねぇ!もう一回、決闘をやり直「その必要はありません。審判の私が、不正が有るか無いかはしっかり見させていただきました。まぁ、私の場合、あなたが不正をしないか見ていただけでしたけどね。」
朱莉の正論パンチに、一瞬ひるんだ後、五味山は逆ギレを始める。
「う、うるせぇ!元はといえば、お前が隼人なんかの所に行ったのが悪いんだろ!?この、尻軽女め!お前を好きになった、俺が馬鹿だったよ!」
そういって、五味山は朱莉の方へ駆けていく。だが、俺はその前に立ちふさがり、顔面に向かってキックをお見舞いした。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
本作はパロディを多く含むため、了承して楽しめる方のみ読んでいただけると幸いです。
今回は、残念ながらキャラの紹介はなしとさせていただきます。
また、応援コメントや★、フォローなど大変励みになりますので、是非お願いします。
それでは次回もよろしくお願いします!
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