第5話 大航海時代

マルコ・ポーロの東方見聞録などに描かれた東洋の富に触発されたヨーロッパ諸国では、15世紀に始まったルネサンス( 文芸復興 )運動、天文学や地理学の発達に加え羅針盤の実用化なども相まって15世紀以降には大航海時代が幕を開ける。

まず、大西洋に面しているイベリア半島のスペインやポルトガルが先陣を切り、地中海を経由した陸路に立ち塞がるオスマン帝国などを避けて大西洋を西に向かって航海したコロンブスがアメリカ大陸を発見し16世紀になるとスペインは中南米を征服して繁栄を築く。続いて、大西洋を東に向かったバスコ・ダ・ガマがアフリカ大陸南端の喜望峰を回ってインド西岸のカルカッタに到達し香辛料を持ち帰りポルトガルもインド航路を開拓して繁栄を築く。

そして、17世紀以降にはオランダやイギリスも参戦し、大西洋を挟んでアフリカ大陸西岸で調達した奴隷をアメリカ大陸でのプランテーション開拓のための労働力として酷使する奴隷貿易などで繁栄を築いて行ったのだ。

しかし、植民地の富の争奪に夢中になっていたヨーロッパの諸王国にも、一方では命を顧みずキリスト教の福音を携えて異邦人の住む世界に布教するために旅立つ一行もあった。

その中心的役割を果たしたイエズス会は、宗教改革で生まれたプロテスタント等の新興キリスト教派の広まりに対抗してカトリックの復興を目指して海外に活路を見出して行った。

イエズス会は、イグナティウス・デ・ロヨラや日本で有名なフランシスコ・ザビエルら7名で構成されたカトリック教会内の司祭修道会の一つとして1540年9月に当時のローマ教皇パウルス3世の大勅書発布を以て公認を得ることとなった。

彼らは世界の至る所に出かけて行っては現地の権力者とも交流し、彼らの望む最先端アイテムの提供や技術協力などしながら、キリスト教の教会と信者を獲得して行った。

アジア方面では、インド管区を管轄するゴアを拠点にインドや中国、東南アジア、そして日本へと布教の輪を広げていった。



ミオが休みの時は、マナティの解読作業に彼女も手伝って一緒に進めていた。


「8章の地震なんだけど、七つのラッパを持っている七人の御使いのラッパを吹いた時の状況描写が鍵を握っていると思うんだけど、どうだろう?」


「そうね、私もそう思うわ。例えば、第一の御使いのラッパでは『血のまじった音と火とがあらわれて、地上に降ってきた。そして、地の三分の一が焼け、木の三分の一が焼け、また、すべての青草も焼けてしまった。』と記されているから、赤く焼けた火を連想しない? だから私は『火山の噴火』じゃないかと思うよ。」


「そうか、君もそう思うよね。じゃあ、第二の御使いのラッパはどうだろう?」


「『火の燃えさかっている大きな山のようなものが、海に投げ込まれた。そして、海の三分の一は血となり、海の中の造られた生き物の三分の一は死に、舟の三分の一がこわされてしまった。』という表現は、第一の御使いのラッパと似通っているからそのの延長線の出来事じゃないかしら? 火山の噴火で港に係留していた船が壊されたという被害は結構あるみたいよ。それに、溶岩流が直接海に注いだら海水も局所的に温度が上昇して魚介類が死滅するかも知れないよね。」


「なるほどね。でも、何で三分の一なんだろう?」


「それは私にもわからないけど、例えば、全てでもなくて、二分の一でもないということは、被害は大きいけど壊滅的ではないという定性的な表現を、数値で漠然と表しているんじゃないかしら。」


「じゃあ、第三の御使いのラッパは? 」


「『たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。この星の名は[苦よもぎ]と言い、水の三分の一が[苦よもぎ]のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。』という記述ね?

『苦よもぎ』とは何なのかが鍵よね。『よもぎ』はお灸のモグサや食用に使われるけど、やっぱり火山噴火の一連の流れからするとモグサのように燻っている溶岩とかじゃないかしら。

そうなると『たいまつのように燃えている大きな星』とは大きな噴石の可能性が高いし、その有害成分が水に溶けて飲用水として使えなくなったことを表しているような気がするわ。」


「じゃあ、第四の御使いのラッパは? 」


「『太陽の三分の一と、月の三分の一と、星の三分の一とが打たれて、これらのものの三分の一は暗くなり、昼の三分の一は明るくなくなり、夜も同じようになった。』という表現ね?

これもさっきと一緒。噴煙で空が霞み、太陽や月や星が見えにくくなったことを暗示しているんじゃないかしら?」


「おう、そうか。全て火山の噴火と繋がっているってことだね。」


「8章のラッパはここまでだから、これらの情報を整理すると、まず地震があって、その後火山の噴火があったということだね。その条件でこれまでの歴史を調べてみようか?」


「大航海時代のキリスト教の布教に沿っているとすると、これらの記述は既にアジアかアメリカが対象かも知れないよ。」


「そうだね。でも地震と火山噴火の両方が発生するようなところだと火山帯が通っていないとだめだよね。やっぱり日本かな?」


「待って。アジアやアメリカには環太平洋火山帯が通っているわ。だから、日本だけじゃなくて、インドネシア、フィリピン、南北アメリカの西岸など、火山帯に沿って見て行く必要があるよ。」


「わかった。その辺りを片っ端から当たってみるよ。」



マナティは早速ネットで調べ始めたが、すると、次のようなことがわかった。


日本では1707年に南海トラフを震源域とする宝永地震が発生し、その1か月半後に富士山の宝永大噴火が発生している。


南米では1575年にチリ南部のバルディビア沖で発生したバルディビア地震と、1600年のペルー南部のワイナプチナ火山の噴火との関係も似通っているが、発生した場所と時期が離れている。


東南アジアでは、17世紀にフィリピンやインドネシアで大きな地震が発生しているが、情報があまり無く、火山噴火との関係性は不明である。


大航海時代とは直接関係ないが、キリスト教の総本山バチカンのあるイタリアの状況も調べてみた。すると、1669年3月のイタリアシチリア島のエトナ山の噴火と、1693年1月に同島で起きたヴァル・ディ・ノート大地震との関係が似通っていることがわかったが、噴火と地震の順序が逆で、その発生時期が24年ずれている。



「ミオ、東南アジアは情報が不足しているのではっきりとはわからないが、黙示録の描写に最も当てはまるのはどうも日本の宝永地震と宝永大噴火の連動災害じゃないかと思う。」


「そうなんだ。やっぱり日本に関する記述なのね。イスラエルと日本の結びつきが間接的にも確認できたわけね。」


「そうだな。波照間島の件と言い、この黙示録の件と言い、僕、何か恐ろしくなってきたよ。とんだ宝探しになっちゃったな。」


「確かに私たち凄い状況になっているのかも知れないね。世界の証人・・・?」


二人は顔を見合わせて溜息をついた。



「それはそうと、みんなにこの情報を伝えなきゃ。」


マナティは気を取り直してグループLINEに情報をアップした。



<アンディ>

「大変な解読作業ありがとう。宝永地震と言えば例の南海トラフを震源とする地震だよね。そして、この時は富士山の噴火も連動していたわけだ。あと第5の御使いのラッパと第6の御使いのラッパが何を意味しているかだね。それと、16章の『人間が地上にあらわれて以来かつてなかったような激しい地震』というのがどのようなものを意味するのかとても気になるな。」


<マナティ>

「そうなんですよ。僕ら何だか怖くなって来ちゃって・・・。」


<アンディ>

「君たちの気持ちはよくわかるよ。でも、決して君たちだけの問題じゃない。僕らみんなが付いているよ。みんなでアクションを起こして行かなきゃならない。」


<マナティ>

「ありがとうございます。そう言っていただけるだけで少し気持ちが軽くなったような気がします。取り敢えず、第5・第6の御使いのラッパの件、引き続き解読を進めます。」


「ありがとう。気を強く持って。心配は無用だよ。」

アンディはLINE電話でマナティに直接声をかけて来てくれた。


他のメンバーも勇気付けるスタンプを送ってくれた。


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