第4話 大地震の記録

ある時、ハルが休日を利用してネットに掲載されているヨハネの黙示録を眺めていて『地震』に関する記述がやけに多いことに気が付いた。そして、検索してみると、次の5か所(単語の数で7か所)もの記載箇所が見つかったのである。


①第6章12節・13節

小羊が第六の封印を解いた時、わたしが見ていると、『大地震』 が起って、太陽は毛織の荒布のように黒くなり、月は全面、血のようになり、天の星は、いちじくのまだ青い実が大風に揺られて振り落されるように、地に落ちた。

I saw when he opened the sixth seal, and there was a 『great earthquake』. The sun became black as sackcloth made of hair, and the whole moon became as blood.


②第8章5節

御使はその香炉をとり、これに祭壇の火を満たして、地に投げつけた。すると、多くの雷鳴と、もろもろの声と、稲妻と、『地震』とが起った。

The angel took the censer, and he filled it with the fire of the altar, and threw it on the earth. There followed thunders, sounds, lightnings, and an 『earthquake』.


③第11章13節

この時、『大地震』が起って、都の十分の一は倒れ、その『地震』で七千人が死に、生き残った人々は驚き恐れて、天の神に栄光を帰した。

In that day there was a 『great earthquake』, and a tenth of the city fell. Seven thousand people were killed in the 『earthquake』, and the rest were terrified, and gave glory to the God of heaven.


④第11章19節

そして、天にある神の聖所が開けて、聖所の中に契約の箱が見えた。また、稲妻と、もろもろの声と、雷鳴と、『地震』とが起り、大粒の雹が降った。

God's temple that is in heaven was opened, and the ark of the Lord's covenant was seen in his temple. Lightnings, sounds, thunders, an 『earthquake』, and great hail followed.


⑤第16章18節

すると、稲妻と、もろもろの声と、雷鳴とが起り、また『激しい地震』があった。それは人間が地上にあらわれて以来、かつてなかったようなもので、それほどに激しい『地震』であった。

There were lightnings, sounds, and thunders; and there was a 『great earthquake』, such as was not since there were men on the earth, so great an 『earthquake』, so mighty.



そして、例の20世紀とした調査起点の11章には特に2か所の地震に関する記述があることもわかった。


「私たちが20世紀の出来事と推定した11章( ③と④ )で地震が2度も発生してるんだ。」


ハルは20世紀に日本で発生した地震をネットで調べてみた。


すると、太平洋戦争中の1944年12月と戦争終結後の1946年12月とに南海トラフ近辺を震源域とする東南海地震と南海地震の両方が発生していることがわかった。そして、南海地震はアンディやマナティが調査していた剣山がある徳島にも近い紀伊半島沖で発生しているのだ。


黙示録の和訳では 『天にある神の聖所が開けて、聖所の中に契約の箱が見えた。』 となっているが、英語版 『God's temple that is in heaven was opened, and the ark of the Lord's covenant was seen in his temple.』 を吟味すると、『天にある神殿( 剣山頂上の劔神社とも解釈できる )が開かれて、聖櫃せいひつとも呼ばれる主の契約の箱( 中には2枚の石板が収められていると言われておりソロモンの秘宝と同義ともされるアーク )がその中に見えた。』 とも取れるような記述に思える。


つまり、太平洋戦争の記述に加え、この日本の地震発生記録と剣山の石板発見の事件は、黙示録とピッタリ符合するのである。


ハルは早速グループLINEにこの発見を投稿した。



すると、その日のうちにみんなから次々にコメントが寄せられた。


<マナティ>

「ええっ、僕たちが発見した剣山の石板は『失われたアーク』だったってこと?」


<ハル>

「いや、そうとは限らないけど、その可能性もあるってことよ。」


<ミオ>

「でも、漢字じゃないよね? (-_-) 」


<ハル>

「確かにそうなんだけどね。漢文に翻訳したレプリカだったりして、えへへ (^_^;) 」



そんなやり取りをしていると、アンディからもコメントが・・・。



<アンディ>

「言語の問題はさておき、これらの地震とその他の記述の関係性を探っていったら、他の章もある程度年代特定ができるかも知れないよ。」


<マナティ>

「確かにそうですね。6章の『大地震が起って、太陽は毛織の荒布のように黒くなり』という表現がもし大規模な地震の後に起きた皆既日食を指しているとしたら、その条件に合致する時期を調べれば、ある程度年代が特定できるかも知れませんね。僕調べてみますよ。」


<アンディ>

「それは面白いアプローチだね。僕も時間があったらやってみるよ。何かわかったら連絡もらえるかな?」


<マナティ>

「もちろんです。」


マナティは、最近の皆既日食の日を調べ、そこから大地震の記録と照らし合わせて行った。日食の発生周期はサロス周期と呼ばれる223朔望月=6585.3212日ごとに発生するらしい。

ただし、この周期だと発生場所が地球の経度約120度ずつ西にずれるらしいので、3周期でほぼ同位置に戻るから、6585.3212日 × 3 = 54.09年の倍数となる年数遡った年にほぼ同地域で発生したことになる。

その条件で大規模地震の発生記録を調べると、エルサレムを含む中近東地域で2006年3月29日に観測された皆既日食から48サロス周期前の1140年11月頃にも皆既日食がほぼ同地域で観測されたことが窺える。

そして、その2年前の1138年8月9日にシリアのアレッポ地震が発生し、約23万人の死者が出ているではないか。これは、6章の『大地震が起って、太陽は毛織の荒布のように黒くなり』という記述とほぼ合致する。

さらに、その後の記述『月は全面、血のようになり、天の星は、いちじくのまだ青い実が大風に揺られて振り落されるように、地に落ちた。』という表現も、1年に2度ある皆既月食前後のブラッドムーンと、ふたご座流星群などの大規模流星群の比喩と考えれば辻褄が合う。



マナティは早速この情報をグループLINEにアップして、アンディに連絡した。


「先生、合致する時期がわかりましたよ。12世紀頃の中近東辺りの描写じゃないかと思います。LINEに載せましたので見てください。」


「千葉君、そりゃ凄い。早速見てみるよ。ありがとう。」



アンディはLINEの書き込みを見て、何となく予想が付いた。そして、次のようなコメントを付加した。


<アンディ>

「つまり、十字軍が遠征していた11~12世紀頃にキリスト教の聖地でもあるエルサレム周辺で出くわした自然現象が時系列的に啓示されたのではないだろうか?」


そして、さらに、次のような書き込みも・・・。


<アンディ>

「③④が日本の太平洋戦争当時の20世紀で、①がエルサレム周辺の12世紀頃とすれば、②の8章はその中間時期にあたる15世紀以降の大航海時代のことが記されているんではないだろうか? ヨーロッパから世界各地へ植民地争奪の航海が盛んになり、それと同時にカトリック系のイエズス会を中心としたキリスト教の布教も行われていったはずだ。つまり、黙示録にはキリスト教の世界への布教の歴史が刻まれていると考えられないだろうか?」


<マナティ>

「今まで黙示録の内容は何と難解なのだろうと思っていましたが、これで何となく謎が解けて来たような気がします。次は大航海時代の解読にチャレンジしてみます。」


<アンディ>

「結果を楽しみにしているよ!」



他のメンバーも書き込みを見て、黙示録の概要を理解したようだった。

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