第3話 黙示録が語る歴史

「私たち二人とよく似た映像が見えたので、本当に驚いたの。」


ミオが波照間島で見た空の光景を思い出しながら語り出した。


「そうなんだよ。僕らとそっくりの二人の映像が見えたんだ。」


「それってどういうことなんだろう?」


ミオとマナティの証言にアンディも不思議そうに尋ねた。


「僕ら二人は遠い過去にどこかで出会っていたんじゃないかと思われるんです。だから、それが黙示録のどこかに記述されているんじゃないかと。」

マナティが何となく浮かんだアイデアを口にした。


「その映像ではどんな格好をしてたの?」

ハルが気になってミオとマナティに尋ねた。


「空の映像に映っていた私たちが着ていた服は確か弥生時代の貫頭衣みたいな粗い麻布っぽい服だったよね。」

ミオがそう答えると、マナティも深く頷いた。


「黙示録の11章には、『わたしのふたりの証人あかしびとに、荒布を着て、千二百六十日のあいだ預言することを許そう。』というくだりがあるんだけど、そういうことかな?」

ハルがヨハネの黙示録の日本語訳のサイトを確認しながら二人に聞いた。


「荒布って粗い布っていうことだよね。アラメという海藻も同じ漢字だけど海藻を着てるわけないから、その記述がもしかしたら私たちなのかも・・・。」


「それじゃあ、君たちは遠い昔の弥生時代に出会って、千二百六十日の間、二人で預言していたってこと?」

アンディが怪訝そうに確認した。


「いやあ、それも考えにくいんですよね。」


「じゃあ、11章辺りをもっと虱潰しに解読してみるか。」

そう言ってアンディがハルの見ていたサイトを確認し始めると、他のみんなも同じようにスマホで文章を追い始めた。



「さっきの文章のすぐ後に『彼らは、全地の主のみまえに立っている二本のオリブの木、また、二つの燭台である。』と書いてあるわ。」


ハルがそう言うと、ミオもハルのさっきの言葉を思い出して付け加えた。


「7章だからずっと手前の文章だけど、さっきハルが言った『もうひとりの御使いが、生ける神の印を持って、日の出る方から上って来るのを見た。』という記述は、やっぱりハルが言うように日本を指しているんじゃないかしら。聖徳太子が中国の隋で自らを『日出る国の天子』と言ったって習ったことがあるような気がするわ。そして、それがここにも繋がっているとすると、『証人』とは日本に関係するんじゃない?」


「聖徳太子の話、僕も聞いたことがあるよ。もし、『証人』にも関係していてそれが日本だとしたら、ハルの言ってる『二本のオリブの木』も『二本と日本の語呂合わせ』で二人と日本を重ね合わせて指していたりしてね。」


マナティが笑いながらそう言うと、アンディが大真面目にその意見に賛同した。


「いやあ、それあるかも知れんぞ。エジプトのヒエログリフ解読にもこの語呂合わせが大いに役に立ったんだよ。それに『木』も子孫への血統を枝分かれに例えているようだ。」


「『オリブ』は旧約聖書創世記の『ノアの箱舟』で放った鳩が最初にくわえて来た木の枝がオリブだったので、鳩と共に平和の象徴とされているの。だから、『日本の平和の血統』と捉えることができるかも知れない。」

ハルがそう言って補足した。


すると、ミオがさらにみんなの意見を求める。

「じゃあ、『二つの燭台』はどう?」


「燭台とは蝋燭ろうそくを立てるための道具でしょ。そして、『蝋』は古語で『らふ』と読むからゴルフなんかで使う芝が刈り揃えていないいわゆる荒れ地の『ROUGH』と語呂合わせで同じなので、『粗い』っていう意味に通じるわ。」


「そうだね。ハルの言う通りかも知れない。だから『荒布』なんだよね。」


「なるほど。じゃあ、その前に書かれている『千二百六十日』や『42か月』という期間も何か意味があるのかな?」

マナティがハルとミオの推理に納得して、さらに突っ込みを入れると、今度はアンディが学者として的確な検証をしてくれる。


「1か月を約30日とすると、四十二か月=千二百六十日となるので、『異邦人が聖なる都を踏みにじる42か月』と『ふたりの証人に預言することを許された1260日』とは同じ日数になるから同じことを意味しているんじゃないかと思う。」


「なるほど。確かに同じ日数になりますね。でもそれって何の期間を意味しているんだろうね?」

マナティは負けじと突っ込みを入れトレジャーハンターとしての意地を見せる。


「『踏みにじる』と言ってるので戦争の期間とかじゃないでしょうか? 例えば太平洋戦争だったりして?」


「井川さん、いいところに気が付いたね。だけど、ネットの情報で計算してみると、太平洋戦争の期間を1941年12月8日の真珠湾攻撃から1945年8月10日のポツダム宣言受諾までと考えると約44か月になるんだよね。近いけど、少し合わないんだよね。」


「先生、そこなんですが、聖なる都を踏みにじる期間とは日本本土以外での戦争とすれば沖縄戦の終結辺りまでじゃないでしょうか?」


「なるほど、そうだな。沖縄戦の終結が1945年6月だから確かに42か月となる。つまり、日本は一方では42か月の間聖なる都を踏みにじり、一方では1260日の間荒布を着てアジアを中心とした植民地国家を欧米列強から解放すると同時に原爆までも投下され壊滅状態となりながら証人として将来の核戦争の恐怖をも預言したと考えられないだろうか。」


「そういうことか。じゃあ、太平洋戦争で決定的な敗北を喫した日本国民の証人としての姿が、波照間島で観た黙示録に描かれたような僕ら二人の姿に重ね合わされて投影されていたってことなんですよね?」


「不思議な話ではあるけど、千葉君、そういうことになるようだな。」


「僕ら何か凄い運命を背負っちゃったみたいですね。ミオ、どうしよう。」


「確かに凄いことだけど、私はとても光栄なことだと思うよ。私たち、未来を切り開く証人として世の中に積極的にこの事実を発信して行かなきゃね。」


「立花さん、そうだとも。僕も今書いてる本にこの情報を整理して盛り込むことで、世の中に伝えて行くつもりだよ。」



「ところで、この章の記述が20世紀の出来事だとしたら、もう少し前の章はそれ以前の出来事が記述されているんだろうか? もしそうだとしたら、少し後の章が21世紀以降の未来に起こるであろう出来事の記述になるんですよね。預言書は本当に未来のことを予言できるんだろうか?」


ミオがふと気づいてそう言うと、アンディが歴史を振り返りながら答えた。


「でも、この預言書が書かれたのは確か2世紀頃とされているから、それから18世紀も先の太平洋戦争について予言していることになるよね。」


マナティも頷きながら解読方針を付け加えた。

「確かにそうですね。11章を20世紀と仮定してそれを起点に前と後ろの章を解読して行くのが良さそうですね。証人としては、これから起こることが特に重要だけど、みんなを説得するにはこれまで起きた出来事との合致性も重要だね。」


そんなやり取りをして、これから先はグループLINEで各自気づいた点を持ち寄りながら進めることとし、この日の会合はお開きとなった。

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