04 藍井エイル「IGNITE」で奮起したフレイガルドの民たちは勇者のパーティをたちどころに叩きのめす

「ドラグレシアさま、こたびの音楽はこれがよろしいかと」


 俺はスポティファイのプレイリストから、藍井エイルの「IGNITE」を選んでタップした。


「ほう、これは……」


 ドラグレシアは興味深そうに聴き入っている。


「ふむ、リサもよいが、この歌もすばらしいな。カイトよ、これはなんというアーティストなのだ?」


「藍井エイルのIGNITEという曲でございます。IGNITEとは心に火をつけるという意味でございまして、たとえどのようなときでも、決してまなざしをくもらさず、目の前の敵を撃破せよという内容の歌になっております」


 けっこう適当に言ってしまったかもしれないが、大筋ではあっているだろう。


「なるほど、まさにいまわれわれが置かれている状況に相応の音楽だ。エイルと申したな。ふむ、このエイルなるおなごの歌もたまらんぞ。フレイガルドの民を鼓舞するには、まさにふさわしいナンバーだ。よし、そうと決まれば、さっそくそのIGNITEをわが魔力で増幅し、国中の者に聴かせるとしよう。でかしたぞ、カイトよ」


「ははっ!」


   *


「皆の者、この音楽を聴くがよい!」


 仕組みはわからないが、ドラグレシアは端末へ指をかざし、流れる音楽はフレイガルドの民たちの頭に鳴り響いたようだ。


「おお、これは……」


「力がみなぎるぞ!」


「勇者などおそるるにたらず! われらフレイガルドの力を思うぞんぶん見せつけるのだ!」


「おおっ!」


 音楽に鼓舞された民たちはいよいよ奮起し、襲いかかってきた勇者レーテシアのパーティをたちどころに叩きのめしてしまったようだ。


 あっけなさすぎる……


 仮にも勇者なのに……


 しかし逆に言えば、音楽の力がそれほどのパワーを持っているということだ。


 これはなんだか感動的だ。


「ドラグレシアさま、勇者レーテシアと魔導士リウーの両名を生け捕りにし、地下牢へ放り込んでおきました。どうぞしかるべきご沙汰を下されますよう」


「うむ、ご苦労だったコルネリオス。さがってよいぞ」


「ははっ!」


 勇者のパーティっていうから、けっこう数が多いのかと思ってたけど、たった二人だったのね。


 レーテシアのほかにリウーっていう魔導士がいるのか。


「カイトよ、さっそく地下牢へまいるぞ。間抜けな敗北者の顔を拝ませてやる」


「は、かしこまりました、ドラグレシアさま」


   *


 勇者レーテシアは冷たい独房に入れられていた。


 金髪に銀色の甲冑をまとっていが、その両手は鎖で吊るされている。


 かわいそうだけど、思ったとおりかなりの美人だな。


「レーテシアよ、どうだ? みずから乗り込んできたにもかかわらず、敗北したうえ捕らえられ、獄につながれる気分は?」


「……殺せ」


「殺しはせん。われはひとつ、お前に問いただしたいことがある。なぜ人間以外の種族を目のかたきにするのだ? 確かにわれらは人間にとっては悪と呼ばれる存在なのかもしれん。だがそれはおごりというものだ。人間だけが生き物ではない、そうであろう? それをなぜ、討伐などと称して蹂躙を繰り返すのだ? われはその理由が知りたいのだ」


「ふっ、蹂躙か……いいだろうドラグレシア、話してやる」


 レーテシアは顔を上げ、とくとくと語りはじめた。


「わたしの家族は、ドラゴン族の手によって殺された……」


 彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた――

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