第20話 昔の写真と、不穏な気配

 その写真には、2人の子どもが写っていた。

 1人は俺。

 当時小学生だった頃の写真だ。こうして見ても、当時とまるで姿形が変わっていな――いや、そんなことはない。たぶんどこかちょっとは男らしくなってるはずだ、うん。

 

 そしてもう一人は、金髪での女の子だった。

 華奢な体つきで、どこか野暮ったい雰囲気の否めない感じ。失礼を承知で言ってしまえば、あまり印象には残らない子という感じだ。

 実際、今の今までぼんやりとしか顔を思い出せなかった。


 だが、写真を見て欠けていたピースがはまったような感覚になった。

 

「そうか。ずっと会ったことがあるんじゃないかって思ってたけど、かのんだったのか!」


 そりゃ、気付かないわけだ。

 名前も違うし、髪方や雰囲気もまるで違う。明らかに今は垢抜けていて、美人になっている。

 そもそも、こことは違う場所で知り合ったのに、まさか同じ高校に入学するとは思わなかった。


 それでも、写真を見て高嶺さんとかのんが同一人物だと気付けた理由は一つ。

 彼女の海よりも深い透き通った青い瞳が、写真の中の彼女と同じだったからだ。


 高嶺乃花が、昔一緒に遊んだ女の子“かのん”と同一人物。

 そう気付いた瞬間、自然と一週間前の一件も腑に落ちるものがあった。

 

 彼女が俺のことを“弓使い”と呼んだ理由。それは、豪気の盗撮から助ける際に小型弓矢を使うのを見ていて、俺の正体が6年前に同じ助け方をした少年と同一人物だと気付いたからだろう。


 だから、弓道場の前で俺に言った台詞。


 ――「私の勘違いだったらごめんなさい! たぶん私、かっく……、――息吹くんのこと、というか……その」――


 その発言は、俺が例のバズったアーチャーだということに気付いたからじゃなかったのだ。


それに、「 」という言葉も、俺の早とちりだった。

俺が小型の弓矢を使って豪気の盗撮を封じたことを見ていて、それに対して「相変わらず、すごいね」と言っただけの話なのだ。


「……悪いことしたな」


 俺は、重たいため息をついた。

 タイミングが悪かったといえばそれまでだが、勘違いで傷つけてしまった。

 そりゃ、昔仲が良かった子に再会して「覚えてません」て言われるのはショックだものな。


 そう思う反面、一つ気がかりなことがあった。


「それにしても、なんで本名教えてくれなかったんだろう」


 同一人物だとわかったからこそ“かのん”は“のんか”をもじった偽名だとわかったが。

 せめて名前さえ一致していれば、こちらも一瞬で気付けた。

 高嶺乃花という珍しい名前は、そうそう見かけないだろうから。


 まあ、考えてもわからないことは、考えても仕方ないな。

 明日、改めて彼女に謝るとしよう。


 そんなことを考え、写真を置いて食卓につこうとした、そのときだった。

 テーブルの上においたスマホが、ブーッと低い音を立てて振動する。と同時に、隣に置いてある亜利沙のスマホも振動した。

 何かしらのメールを、二人同時に受け取ったみたいだ。


「亜利沙、スマホ鳴ったぞ」

「了解! すぐ行く」


 丁度料理を並べ終えた亜利沙が、パタパタと駆け寄ってくる。


 俺は自分のスマホをとって、バナーを一瞥いちべつした。

 大したメールでなければ、夕食の後にでもチェックしようと考えていた俺だったが、メールの題名に【緊急】と書かれていたことで、俺は眉根をよせた。


 差出人は、山台高校。

 隣でメールボックスを開いた亜利沙の画面をちらりと覗くと、同様の緊急メールだった。


 ちなみに、どうして亜利沙も同じメールを受け取っているかというと、彼女も山台高校の中等部に通っているからである。

この状況を見る限り、どうやら生徒と保護者全員へ一斉メールが送られているようだ。

 一体何があったんだ?


 不穏な空気感に包まれながら、俺はバナーをタップしてメールを開いた。


『from:yamadai high school group.xyz.com

【緊急】保護者・生徒各位

 ただいま、本校に設置されているダンジョンにて変調が生じております。主な異常としてダンジョン内におけるモンスターの狂暴化・“生還の指輪”のという重大な問題が生じております。現在ダンジョン運営委員会と協力して解決に当たっております。問題が解決するまで、くれぐれも、ダンジョンには入らないでください』


 ――は?

 俺は、読んでいて血の気が引いていくのを感じていた。

 ダンジョン内のモンスターの狂暴化だけでも厄介なのに、よりにもよって“生還の指輪”が意味を成さない異常事態に陥っている。


 それはつまり、狂暴化したモンスターに襲われて瀕死になってしまっても、救護室へ転送されないということ。そうなった場合――誰かが命を落とす危険性も出てくる。


 そして――俺は今日、聞いてしまった。

 高嶺さんと、友人の会話を。


「待てよ……確か、あの二人、今日ダンジョン攻略に行くって言ってなかったか!?」


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