ぱらいそ

甲斐

ぱらいそ

慰めてくれるあなたの左手に赤い蛍がいて潰せそう


夕焼けに時間は老けてその皺がふたりの皺になるまで話す


もう舟はくずれて木屑 (くずされて) わたしが乗っていたかもしれず


生きている肌に指紋は増えつづけ宝石になるのは骨ばかり


冬という床につくほど長い髪 しずかに梳かされる黒髪よ


まばたきは知らないうちに始められ楽器を盗むなら今だろう


わたしがわたしを産めば幼い顔のまま置き去りにする夜のない国


うつくしい自主退学を たましいは身体に身体は上着につめて


藤の領土をあなたはかるく明け渡す美徳にはしないでほしかった


ポケットの底で硬貨をもてあそぶこのくらいの遺骨もあったな


血は日々のように流れてどうしても横たえるなら菖蒲園へと


その城や城下町さえひとこえで滅ぼしたいよ 親しい声で


魚の骨の淡い透明ひきぬいて同時に笑うときひらく闇


これはまだ心の話 ふりおろす斧が一角獣を仕留めて


窓際で夢中になって読みかえすはぐれる結末の文庫本


おそろいの細さの腕におそろいの時計を巻いたまま垢抜ける


みずから名前を選んだことがない胸に眠る架空の競走馬たち


将来のことは黙って触れたいと金木犀がひどいねここは


振り撒いて(笑顔を?)いいえ火の海を それからその海に浸ける脚


抑揚は変わらないまま千回の変声期後も梟を呼ぶ

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ぱらいそ 甲斐 @mi_iu_u

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