第5話 村人たちの不安と隔離

舞とレオンが村に到着してから数時間が経った。村人たちは次第に舞の存在に慣れてきたかに見えたが、その背後には不安が漂っていた。舞の体から漂う腐敗臭は、彼女が普通の人間ではないことを明白にしていた。村人たちは彼女がゾンビであることを知り、その存在がもたらす危険性に気付いていた。


村の広場で子どもたちが遊ぶ様子を眺めていると、舞はふと自分の手を見つめた。青白く冷たい皮膚、その下に流れる血は既に止まっている。それでも彼女の心は生きていると信じたい。だが、その一方で、ゾンビとしての本能が彼女を蝕み続けていることを痛感していた。


「舞さん、少しこちらに来てください」と、村長のエルダンが厳しい表情で呼びかけた。


舞は頷き、エルダンの後についていく。彼が案内したのは、村の端にある小さな小屋だった。中に入ると、そこには簡素なベッドと最低限の家具が置かれていた。


「舞さん、申し訳ないが、ここでしばらく過ごしてもらいたい」とエルダンは言った。


「どういうことですか?」と舞は驚いて尋ねた。


エルダンは深いため息をつき、言葉を選ぶようにして答えた。「あなたがゾンビであることは、村の安全にとって大きなリスクとなります。ゾンビ化が完全に進行すれば、理性を失い、村人を襲う危険があると考えています。」


舞はその言葉にショックを受けた。自分がもたらす可能性のある危険を理解しながらも、村人たちの不安が直接的な形で示されたことに、心が痛んだ。


「私はそんなことを望んでいません。でも、あなたたちの不安も理解できます」と舞は静かに答えた。


エルダンは頷き、「あなたの理解に感謝します。この小屋でしばらくの間、あなたの状態を観察させてもらいます。何か必要なものがあれば、すぐに言ってください。」


舞は小屋の中に一人残され、戸が閉められる音が響いた。彼女はベッドに腰掛け、深い呼吸を繰り返した。ゾンビ化が進行する恐怖と、村人たちの安全を守りたいという願いが交錯する。


その時、舞の内側から再び衝動が湧き上がってきた。魔物の頭にかぶりつきたいというゾンビとしての本能が、彼女の意識を支配しようとする。舞は深呼吸を繰り返し、その衝動を抑え込もうと必死だった。


(私は人間としての理性を失わない…この衝動に負けるわけにはいかない…)


舞は自分の内なる声に語りかけ、必死に心を落ち着けた。村の人々の前で自分が理性を失うわけにはいかないと強く誓った。


その夜、舞は小屋の中で一人、自分自身と向き合い続けた。異世界での新たな生活は、彼女にとって試練の連続だったが、彼女は決して諦めないと心に決めていた。ゾンビとしての自分を受け入れつつ、人間としての理性を保ち続けること。それが、彼女が異世界で生き抜くための鍵なのだ。

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