第4話 村人たちの歓迎

舞とレオンは、やっとのことで村の入り口にたどり着いた。小さな村は、木造の家々が立ち並び、穏やかな雰囲気に包まれていた。村の中心には、大きな広場があり、子どもたちが遊んでいる姿が見えた。舞は一瞬、自分がゾンビであることを忘れ、平和な風景に心が和らいだ。


「ここが僕たちの村だよ」とレオンが誇らしげに言った。


「綺麗な場所だね」と舞は微笑んで答えた。


二人が村に入ると、村人たちが次々と集まってきた。彼らはレオンを見て喜びの声を上げ、舞に対しても好奇の目を向けた。村の長老エルダンが、杖をついて近づいてきた。


「レオン、無事でよかった。彼女は…?」


「彼女は舞さんです。森で僕を助けてくれました」とレオンは説明した。


エルダンは舞をじっと見つめ、深いシワの刻まれた顔に微笑みを浮かべた。「助けていただき感謝します。村に歓迎しますよ、舞さん。」


「ありがとうございます」と舞は一礼した。しかし、村人たちの中には、舞の異様な姿に警戒心を示す者もいた。彼女の体から漂う腐敗臭が、村の清浄な空気に混ざり合い、不安を煽っていた。


「この人、少し匂うけど…」と、子供の一人が声を上げた。


「まあまあ、助けてくれたんだし、それくらい我慢しよう」と村人の一人が取りなした。


舞はその言葉に小さく笑みを返しながらも、内心では自分の存在が周囲に与える影響に葛藤していた。自分がゾンビであることを受け入れつつも、周囲との共存を目指す難しさを痛感していた。


エルダンが村人たちを落ち着かせ、「皆さん、この方が私たちを助けてくれたのです。どうか協力し合いましょう」と呼びかけた。村人たちはしぶしぶながらも納得し、舞を歓迎する姿勢を見せた。


舞は村の中心にある広場で休憩することにした。レオンが水を汲んできてくれ、彼女はそれを受け取りながら村の風景を眺めた。子どもたちが遊ぶ姿、大人たちが働く姿、それらが一つのコミュニティを形成している様子が、舞の心に温かさを与えた。


「舞さん、本当にありがとう。君がいてくれて助かったよ」とレオンが感謝の言葉を述べた。


「こちらこそ、助けてくれてありがとう、レオン」と舞は応じた。「でも、まだやるべきことがたくさんあるみたいね。」


その時、舞の内側から再び衝動が湧き上がってきた。魔物の頭にかぶりつきたいというゾンビとしての本能が、彼女の意識を支配しようとする。舞は深呼吸を繰り返し、その衝動を抑え込もうと必死だった。


(私は人間としての理性を失わない…この衝動に負けるわけにはいかない…)


舞は自分の内なる声に語りかけ、必死に心を落ち着けた。村の人々の前で自分が理性を失うわけにはいかないと強く誓った。


「舞さん、大丈夫?」とレオンが心配そうに尋ねた。


「ええ、大丈夫よ」と舞は微笑んで答えた。「少し疲れただけ。ありがとう、レオン。」


その時、村の長老エルダンが近づいてきた。「舞さん、少しお話を伺ってもよろしいですか?」


「もちろんです、長老」と舞は答え、エルダンについていった。


エルダンは舞を村の会議室へと案内し、座るよう促した。「あなたが異世界から来たという話は本当ですか?」


「はい」と舞は頷いた。「私は元々、この世界の住人ではありません。交通事故に遭って目が覚めたら、この世界にいて、ゾンビになっていました。」


エルダンは深く頷き、思慮深い表情を浮かべた。「なるほど。あなたが持つその力が、我々の村を救う鍵となるかもしれません。しかし、同時にその力は大きな試練でもある。」


「試練…ですか?」と舞は問いかけた。


「そうです」とエルダンは静かに言った。「あなた自身の心との戦いです。ゾンビとしての本能と人間としての理性、その二つをどのように折り合いをつけるかが重要なのです。」


舞はその言葉に深く考えさせられた。自分がこの異世界で生き抜くためには、内なる葛藤と向き合い、克服する必要がある。それが、彼女の新たな使命であり、挑戦なのだと理解した。


「わかりました、長老。私はこの試練に立ち向かいます」と舞は力強く答えた。


「それでこそ、桜田舞です」とエルダンは微笑んだ。「村の皆も、あなたを信じてくれるでしょう。」

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