第3話 村へ向かう道中
舞とレオンは、深い森を抜けて村へと向かって歩き始めた。森の中は静寂が支配しており、時折聞こえる風の音や小動物の動きが、異世界の雰囲気を一層神秘的なものにしていた。森の中を歩くと、舞は自分の異様な姿を改めて感じた。ゾンビとしての冷たい皮膚と独特の臭いが、彼女の感覚を刺激し続けていた。
「村はこの先だよ。でも、魔物がまだ潜んでいるかもしれないから、気をつけて」とレオンが言った。
「ありがとう、レオン。君のおかげで少しは安心できる」と舞は微笑んで答えた。
歩みを進める中、舞は自分の新しい力について思いを巡らせていた。ゾンビとしての身体能力は驚異的で、現実世界では考えられないほどの速さと強さを持っていた。しかし、それに伴う腐敗の臭いや衝動は、彼女の心に重くのしかかる課題だった。
突然、周囲の空気が変わった。舞は本能的に立ち止まり、耳を澄ませた。何かがこちらに向かってくる音が聞こえる。レオンも同じように立ち止まり、緊張の面持ちで周囲を見渡した。
「レオン、何かが近づいてくる」と舞は低くつぶやいた。
「気をつけて、また魔物かもしれない」とレオンは答えた。
その時、茂みの中から不気味な影が現れた。鋭い爪と牙を持つ魔物が、再び舞たちの前に立ちふさがった。今度の魔物は、先ほどのものよりもさらに恐ろしい姿をしていた。巨大な体躯に覆われた鱗は、暗い森の中でも光を反射し、その赤い目は憎悪に満ちていた。
舞は一歩前に出て、身構えた。彼女の中でゾンビとしての本能が目覚め、体中に力がみなぎる。
「レオン、後ろに下がって。私がなんとかする」と舞は冷静に指示した。
レオンは頷き、素早く舞の後ろに下がった。舞は魔物に向かって歩み寄り、その鋭い牙が光るのを見つめた。魔物が咆哮を上げ、爪を振りかざして襲いかかってきた。
舞は一瞬の隙をついて、魔物の攻撃をかわした。ゾンビとしての速さと反射神経を駆使して、彼女は魔物の横腹に拳を叩き込んだ。その衝撃で魔物は後退し、怒りに満ちた咆哮を上げた。
魔物は再び攻撃を仕掛けてきた。今度は舞はその爪を受け止め、全力で押し返した。彼女の手には異様な冷たさが広がり、魔物の鱗が軋む音が聞こえた。舞はそのまま力を込め、魔物の腕を折るようにねじり上げた。
魔物は痛みに叫び声を上げ、体をよじらせて舞から逃れようとしたが、舞はその隙を逃さなかった。彼女は素早く魔物の背後に回り込み、首に手をかけた。そのまま力を込めて引き裂こうとするが、魔物の抵抗が激しく、彼女の力だけでは足りなかった。
「舞さん、僕も手伝う!」とレオンが叫んだ。
レオンは地面に落ちていた大きな枝を拾い上げ、魔物の足元を狙って突き刺した。魔物はバランスを崩し、舞が再び力を込めるチャンスを作り出した。彼女は全身の力を集中し、魔物の首を引き裂いた。
魔物の頭が地面に転がり、その赤い目の光が徐々に消えていった。舞は大きく息を吐き、立ち上がった。彼女の周囲には、魔物の体から放たれる腐臭が広がり、それが異世界の澄んだ空気に混ざり合っていた。
だが、倒れた魔物の頭を見た瞬間、舞は突如として強烈な衝動に襲われた。その頭にかぶりつきたいという本能的な欲望が、全身を駆け巡った。彼女はその衝動を必死に抑えようとしたが、内なる声が囁き続ける。
(ダメ…そんなことしてはいけない…でも、この衝動が…)
舞は唇を噛み締め、目を閉じて深呼吸を繰り返した。彼女の心の中では、人間としての理性とゾンビとしての本能が激しくぶつかり合っていた。
「ありがとう、レオン。君がいなければ勝てなかったかもしれない」と舞はようやくその葛藤を抑え込み、震える声で言った。
レオンは感謝の気持ちと共に、困惑した表情で舞を見つめていた。「僕も怖かったけど、君の勇気に助けられたよ。」
舞は微笑み、レオンの肩に手を置いた。「私たち、いいチームだね。村に行って、これからのことを話そう。」
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