第6話
ルヴィンがリアクと戯れていたその一方で、パテラは所用でリアードの元を訪れていた。
互いに貴族である者同士、いろいろな話題に花を咲かせていたものの、その話題は自然とすぐにルヴィンのものに移っていく。
「あーあ。ルヴィンちゃん今ごろ何してるのかしらぁ…。私に会えていないことを悲しんで、自分の体を慰めたりしてるんじゃないかしらぁ…」
「やれやれ…お前は口を開けばいつもルヴィンのことを言っているな…。一体あいつの何がそこまで気になるのだ?」
「えーー、だってルヴィンちゃんって聖女アリシアの事が好きなんでしょう?その気持ちを私の方に向けることができたなら、この上ないくらい快感じゃない♪」
「…分からん…」
胸を張って堂々と自分の性癖を口にするパテラ。
ルヴィンはそんな様子のパテラについていけないといった様子だったが、その話の内容はきちんと聞いていたらしく、気になった箇所を聞き返した。
「って、ルヴィンが聖女アリシアを好きだっていうのはどういうことだ?そんな話、うわさだって聞いたことがないぞ?」
「まぁ、女殺しのイケオジなんて呼ばれてるくせに鈍いのねぇ。聖女アリシアの事を話すときのルヴィンちゃんの様子なんか見てたら、一目瞭然だと思うけれど?」
「そ、そうなのか?」
リアードがその事実を把握していなかったという事を知り、パテラはどこか得意げな表情を浮かべて見せる。
ルヴィンに関する知識はやはり誰にも負けたくはない様子だ。
そして同時に、リアードはその心の中にある仮説を思い描いた。
「(ということは、ルヴィンがリヒトに噛みつく理由の一つはそれか…?以前からどうにも裏がありそうなものだとは思っていたが…)」
リアードはその仮説を口には出さなかったものの、その考えは完全にパテラに見抜かれていたようで、彼はリアードの表情を見つめながらこう言葉を発した。
「考えていることが丸わかりだけれど…。まぁどっちにしても、聖女様を好きになるだなんて大したものよねぇ。慈悲深い心を持っていて容姿も美しく、その麗しい声に今までどれだけの人間が心動かされてきたか分からないほど。言ってみたらこの世の奇跡みたいな女性を好きになったんだからねぇ♪」
「それじゃあお前に聞こう。その聖女様はどこの誰と結ばれるとお前は思っているんだ?」
リアードの発したその質問に対し、パテラは待っていましたと言わんばかりの様子でこう言葉を返した。
「そんなの決まっているじゃない!第一王子様よ!リヒト第一王子様が聖女の心を手に入れるのよ!あの男意外にあんな有名で人気な女を受け入れられるはずがないでしょう?」
パテラはそのことをもはや事実であるかのように、自信満々に言ってのけた。
しかしそれを聞いたリアードは、あまりその説明に納得している様子を見せない。
「(さて、それはどうだろうか…。我々が忌み嫌い、敵対することさえいとわないと考えるほどの第一王子が、果たしてそんな安直な行動をとってくるだろうか…?聖女アリシアは一般の者のみならず、貴族の者たちからの人気も非常に高い。それを考えれば、王家と貴族家の溝を今以上に深めることになるのは明らかであるが…)」
リアードの懸念はもっともであり、実際パテラの言っていることがそのまま現実になったなら、リアードの考えた通りのシナリオを描く可能性が非常に高い。
…しかしパテラは、どこかそれさえも楽し気な表情を浮かべて見せた。
「…想像してみて、リアード。一人の女をめぐって、立場も性格も違う男たちが入り乱れて争いを繰り返す…。すぐそばで見ていてこれ以上に興奮することなんてないでしょう?♪」
「はぁ…。お前というやつは…。話はこれで終わりだ。私はもう帰るぞ?」
「ええーー。これからもっと深い話をしてあげようと思てったのにぃ…」
「お断りするよ。次はルヴィン本人にでも話を聞いてみるとしよう」
「ちょっと!!私抜きで勝手に話を進める気!?男同士で関係を深めるっていうなら私だって」
「んなわけあるか!!聖女様のことについて聞いてくるだけだ!」
「なぁーんだ」
「はぁ…」
なにやらどっと疲れた様子のリアードに対し、まだまだウキウキした表情のパテラ。
二人はそう会話を終えると、互いに別れの言葉を発した。
もっとも、パテラの方はまだまだこれでは語り足りないといった表情を浮かべていたが…。
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