第5話

少なくとも前回よりはまともな作戦会議を行うことができたルヴィンは、その心をやや落ち着かせた様子で自らの屋敷に戻り、そのまま眠りにつくこととした。

リヒトに対する不満や憎しみを盛大にぶちまけてきただけに、今夜こそは安息の眠りにつけるであろうと期待していた彼だったものの、案の定その夢の中には例の人物が姿を現した。


バッ!!!!

「ま、またこの夢かよっ!!くそっ!!」


何の物音もしない、誰もが寝静まる夜の時間において、ルヴィンは自分のベッドの上で自身の体を飛び起こした。

全身にどっと汗をかき、ややその体を震わせている様子から見るに、直前まで快くない夢を見ていたであろうことは誰の目にも明らかである。


「(一体これでどれだけの日々連続でこの夢を見ているのか…。数えるのもやめてしまったために正確な数字は分からないが、嫌になるほど連続でむかつく表情のあの男が夢に出てきていることは確かだ…)」


いけ好かない得意げな表情に、無駄にサラサラとした長髪、見る者の心を射抜くような鋭い瞳とそのたたずまい。

夢を通じて見えてくるリヒトに関するすべての景色が、ルヴィンには憎たらしくて仕方がなかった。


「なんなんだ…!こんなにも嫌いだというのに…!」


まさに、嫌いになればなるほどに自分の夢の中に濃く現れるようなリヒト。

先日リヒトに対する対策会議を仲間たちとともに行い、リヒトへの憎しみは増幅させたはずであるのに、それでもなお夢見の悪さは改善されていない様子…。


「…こ、これもあいつから俺への嫌がらせに違いない…。いいだろう、お前がその気であるならとことんまで付き合ってやる…。絶対に眠ってやるからな…」


リヒトへの対抗心を燃やし、なんとか呼吸を整え、再び睡眠の渦へと沈もうと努力するルヴィンであった…。


――――


「だ、大丈夫ですかルヴィン様??何やら大きな音が…ってルヴィン様!!」


それから時間を経ずして、ルヴィンの使用人であるリアクが彼の部屋に駆け付けてきた。

リアクは8歳の年齢にふさわしく、明るく活発な性格をしていた。

そして主君であるルヴィンの事をどこまでも好いており、彼自身なにか気になることがあったときには、こうして部屋まで駆けつけてくることがよくあった。

今日もまたそんなルヴィンのもとに駆けつけてきたリアクが見たのは、ベッドから落ちてしまっているルヴィンの姿だった。

どうやら寝ているまま落下してしまったらしく、当のルヴィンもまた落下の衝撃で目を覚ました様子。


「あぁ、リアクか…。夢で見たあいつが目の前にいなくてほっとしているよ…」

「ゆ、夢…ですか??」


リアクは、それまでルヴィンが夢見の悪さに悩まされていることは知らなかった。

だからこそリアクはルヴィンに対し、冗談めいたことを口にした。


「夢見が悪いのですか…。それならこの僕を隣においていただければ、嫌いな夢なんて絶対に見なくなると思いますよ!!どうですか??試してみませんか??」

「…」


そう言葉を発したリアクだったものの、ルヴィンは自身の表情を硬くしたままで、それに対してなんの反応も示さなかった。

そんなルヴィンの雰囲気を見て、リアクはルヴィンの機嫌を損ねてしまったのではないかと考えた。


「(ど、どうしよう…。少しでも笑ってほしくて言ったんだけど、ルヴィン様すっごく怖い表情を…。や、やっぱり僕がルヴィン様の隣で寝るなんて、冗談でも言っちゃダメだったかな…。ルヴィン様が苦しそうにしているのに、僕はなんて役立たずな…)」


心の中で後悔の言葉をつぶやくリアクだったものの、どうやらそれは彼の勘違いだった様子。

というのも、リアクの言葉を聞いて固まっていたルヴィンであったものの、どうやらルヴィンはまだこれが現実なのか夢なのか区別がつかず、少し寝ぼけている様子。

彼はそのままリアクを自分のベッドまで寄るよう手招きすると、その小さな体を抱きしめてこうつぶやいた。


「あーあ。自分から入ってくるなんて…。それじゃあ寝られるまで付き合ってもらおうか…」

「っ!!!!」


…まさか言ったことがそのまま受け入れられるとは微塵も思っていなかったリアク。

彼はその表情を大いに赤くし、これまでにないほどに自身の心臓の鼓動を強く感じながら、心の中でこう言葉を叫んでいた。


「(や、やばいやばいやばいやばい!!!ルヴィン様のお顔がすっごく近い!!!そ、それに年上の男性らしい刺激的な匂いもすごい!!!ぜ、絶対寝られないよどうしようこれ…!!!)」


――――


翌日、ルヴィンはそれまでにないほど非常によく眠れた様子で朝を迎えたが、リアクとの一連の会話の内容やいきさつはまったく覚えていない上に、リアクよりも先に起きた………いや、正確には興奮して寝られなかったルアクが先にベッドを離れていたために、昨晩起きたことの真実を知る由もないのだった。

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