第4話

リヒトの座する王宮にて、厳正なる雰囲気に包まれた王室会議が開かれていた一方、リヒト第一王子に対抗するべく、一部の貴族たちもまたその長たちが集まって会議を開いていた。

のだったが…。


「あーーもう!!お前のせいで会議が全く進まなかったじゃないか!!どうしてくれるんだ!!」

「どうしてくれる??それじゃあこうしてあげる!!!!」

「あああああ!!!!!」


パテラに対してそう言ったが最後、パテラはルヴィンをその手の中に強く抱きしめる。

ルヴィンはなんとかその腕の中から脱出しようと必死であるものの、比較的体格のいいパテラの腕の中からはどうにも逃げることはできない様子で、手足をばたばたとさせてあがき続けている。


「あぁもうなんでこんな無駄に体がでかいんだ!!少しはやせろ!!!」

「あらひどいわね…。いつでもこうしてルヴィンちゃんを受け止められるように体を大きくしてるのに、なんでそんなことを言うのかしら?そんな悪い子にはもっともっと強くお仕置きが必要ね…♪」

「あああぁぁぁ!!!!!」


…人目を気にせずいちゃつき続ける二人の事を見かねてか、リアードがため息をつきながら二人に言葉をかける。


「はぁ…。前回の会議が進まなかったから、私たちだけでも進めようと言ったのはお前たちの方だろうに…。いつまで遊んでいるのだ…」


リアードは自身の右手であごひげを軽くさわりながら、少し顔を伏せて疲れたそぶりを見せる。

彼は今日もまた二人の元へ来たことを後悔している様子だ。


「きょ、今日は真面目な話だよ!!いいから二人とも聞け!!」

「私はずっと聞いているのだが…」


パテラに拘束されたままのルヴィンに対し、まっとうな言葉を返すリアードであったものの、ルヴィンの様子から見て、自分たちと真剣な話をしたいというのは本当の事なのであろうと察した。

同じことをパテラも察したのか、ようやくその過剰なまでの愛情表現を自重し、ルヴィンの体を自身の腕から解放する。


「やっと終わったか…。ま、まったくひどいめに……」

「ひどいめ??なにか文句が」「う、うるさいなんでもない!!!」


パテラの発しそうになった言葉を強引に遮ると、ルヴィンはそのまま深呼吸を行って乱れた呼吸を整え、コホンと咳ばらいを挟んだのち、説明を始める。


「話をしたいのは他でもない、リヒトの奴についてだ。もうこれ以上黙ってはいられない。いい加減俺たちの思いをぶつけさせてもらうぜ」


ルヴィンはそれまでと雰囲気が変わったかのように、冷静で、それでいて目の奥が燃えているような表情を見せ、二人の気持ちをも自分の心に引き寄せる。


「まったく、ようやくそう言う話になったか…。ここまで長かったな」

「真面目な顔のルヴィンちゃんも素敵ね♪」

「「……」」


相変わらず浮かれた表情を浮かべているパテラの事はスルーする二人。

ルヴィンはそのまま説明を続けていく。


「二人も知っているだろうが、リヒトが第一王子の位についてからというもの、ろくなことが起きていない。王宮を自分のおもちゃにするあいつの事を快く思っていない人物は、俺たち以外にも大勢いることだろう。そろそろこのあたりでお灸をすえてやらないと、貴族家としての気が済まない」


まじめな表情でそう言葉を発するルヴィンに続き、パテラとリアードもまたそれぞれお自身の思いを口にする。


「ルヴィンちゃんがやるっていうのなら付き合うわよ!それも相手が第一王子だなんて、この上なく面白そうなことになりそうじゃない!」

「王宮で好き勝手に振る舞うあいつのことが面白くないのは、私も同意だ。しかし本当にやるのか?リヒトは相当に頭の切れる男で、容姿も端麗で人気が非常に高い。それゆえにあいつを中心にした王宮の結束は固く、なまじ喧嘩を売ったなら、こちらのほうがつぶされてしまうかもしれないぞ?」


パテラは能天気な口調でそう返事をしたが、一方でリアードは的確に現況を分析し、持ち前の渋い声でルヴィンにそう言葉を返す。


「それはそうだが、もう見逃すわけにもいかない。あいつは部下の若い近衛兵たちを誘惑して、その心を完全に掌握しているらしい。あいつの周りの者たちもまた、同じやり口であいつに抱き込められているって話だ。…あぁもう、聞いてるだけで腹が立つぜまったく…」

「私ならいつでもルヴィンちゃんを抱き込めてあげるわよ?♪」

「おい、そろそろ落ち着け…」


リアードはやや興奮するパテラの肩を抱き、低い口調でそう言葉を告げた。

渋い口調でリアードからそう言われたパテラはややその表情を嬉しそうにし、素直にその言葉に従う。


「(な、なんでリアードに言われた時は大人しくなるんだよ…。俺の時はいくら言っても全く言うことを聞き入れないくせに…)」


パテラの言動にやや納得できない様子のルヴィンだったが、いったんそのもやもやを心の中に封じ込め、そのまま作戦会議を続行することとしたのだった。

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