第3話
ルヴィンたちが会議場をにぎわせていたその一方、その議題の中心人物であったリヒトもまた、自分の仲間たちを集めて会議を行っていた。
王家の今後にかかわる重要な会議を終わらせた彼のもとに、彼の臣下であるルークが心配そうな表情を浮かべて近づいていく。
「リヒト様……つい先ほど会談が終わったばかりだというのに、これから王室会議でございますか…。失礼ながら、お体の方は大丈夫ですか??」
「心配はいらないさ。これが片付けば今日はなにもない。そのあとはゆっくりできる。…それともルーク、君は私がこの程度で倒れるような情けない男だと思っているのかい?」
「と、とんでもないです!!リヒト様よりもお強い男など、僕は誰も知りません!」
「なら、心配はいらないさ」
ルークの言葉にそう返事をし、自身の椅子に腰かけてリラックスするリヒト。
そんな彼の髪の毛を、彼の臣下の一人であるルークが丁寧にとかしている。
ルークの指先は繊細で美しく、素性を隠したなら100人の人間が美人な女性の手であると答えるだろう。
普段は強気で自他ともに厳しいリヒトであるが、ルークに自身の髪の毛をとかせるこの時ばかりはその性格を和らげる。
それほどに二人の信頼関係は深く強いといえるのだろう。
「相変わらず上手だ。君に任せて本当に良かった」
「ありがとうございます!」
「………」
…しかし、その二人の姿をどこかうらやましそうに、それでいて妬いているような表情で察する人物が一人、いるのであった…。
――――
「ではこれより、王室会議を始めます」
リヒトの秘書であるレイの声が王室に響くとともに、王室会議は開始となった。
レイは王室会議の取り仕切りを以前から任命されており、今回もまたそれまでと同じく彼が司会を行っている。
そしてその声とほぼ同時に、リヒト第一王子が扉を開けて現れる。
王座へと向かって歩むその美しい姿を前にしては、男性であろうと女性であろうと、身近な人物であろうとそうでないものであろうと、その全員が魅了されてしまうことだろう。
「す、すごく美しい…」
「ああ…あれでこそリヒト様…」
「…何度この目で見ても、決して見慣れることのない光景だ…」
リヒトは会議室中央の王座を目指し、自身を警護する憲兵たちの列をまっすぐ進んでいるのだが、途中でその足を止めてしまう。
そして停止した位置の前にたたずむ憲兵の方へと、厳しい目つきを送る。
向けられた憲兵はまだ若い年齢であり、自分が何かリヒトに対してなにか不義を働いてしまったのではないかと思ったようで、その体を少し震えさせ始める…。
そんな彼の横に並び立つ憲兵たちもまた、独特の緊張感をその心の中に抱く。
それほどに高圧的な目つきを、リヒトはその若き憲兵に向けたためだ。
しかしそんな彼らの不安感は、その後リヒトの発した言葉とともに一瞬のうちに消え去る。
「君が腰から下げるその剣は、我が王国が世界に誇る立派なもの。ベルトを緩ませず、堂々と付けるんだ」
「は、はいっ!!!」
リヒトはそう言葉を発すると、自ら憲兵の腰に手を触れ、剣先の角度を理想的な位置へと調整した。
…その行いは王子としての威厳の深さを周囲に見せるためなのであろうが、それを見た周囲の憲兵たちは…。
「な、なんだようらやましい…」
「お、王子に腰を触られるなど…!!!」
「お、俺も曲げてればよかった…」
などと、小声を発さずにはいられなかった。
その後、リヒトはそれまでと変わらぬカリスマ性とオーラを放ち、会議室中央の王座まで歩みより、そのまま自身の腰を下ろした。
そしてそれを合図にして、広い会議室の隅から隅まで響き渡る声でレイが言葉を発する。
「リヒト様がいらっしゃいましたので、これより会議を始めます。…まずは、直近の王宮における財政の報告から。担当の者は前へ」
「はい!」
その言葉を始まりの合図として、王宮にかかわるさまざまな議題が話始められたのだった。
――――
「ふぅ、これで今日の仕事はひと段落だな」
「お、お疲れさまでした、リヒト様」
無事に会議を終え、自分の部屋に戻ってきたリヒトは、ほっと深呼吸をしながら自身の椅子に腰かけた。
そんなリヒトの事をレイはねぎらいながらも、どこかそわそわとした表情を浮かべる。
リヒトはそんなレイの変わった様子をすぐに見抜き、そのまま声をかける。
「なんだレイ、この私になにか言いたいことでもあるのか?」
「え!?…えっと…その…」
体をもじもじと動かしながら、言葉に詰まっている様子のレイ。
しかしそのままでは自分の思いは伝えられないことを悟ったのか、意を決した様子でこう言葉を発した。
「そ、その…。ぼ、僕にもリヒト様の美しい髪の毛をとかせていただきたいです!!…と思ったり……」
…完全にルークに対して嫉妬している様子のレイは、自身の思いをストレートにリヒトに告げてみせた。
ルークは年齢にして18歳、レイよりも10歳も年上なのではあるが、心惹かれるリヒトを前にしてそんなことは関係ない様子…。
そしてそんなルークに対し、リヒトはその表情を変えることなくこう返した。
「それはお前がもっと成長してからだな…。それまではルークに任せることにしているよ」
「そ、そんな……。ど、どうかこの僕にもそのお仕事を…!!!」
「ただ」
リヒトは座っていた椅子から腰を上げ、そのままレイのそばまで歩み寄る。
リヒトの存在を近くに感じるレイはその表情を赤らめ、心臓の鼓動を早めていく…。
「(リ、リヒト様のお顔が……ち、近い…!!!)」
リヒトはそのままレイの肩を抱き、自身の唇を彼の耳元まで近づけると、甘美な色っぽさを感じさせる口調でこう言った。
「レイ、君には君にしかできない仕事をまかせたい。私の思い、分かってくれるか?」
「?!!?」
…すでに頭の中が沸騰寸前のレイに、リヒトの言葉を拒否することなどできるはずもないのだった…。
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