第2話
比較的小さな部屋のベッドの上、一人の男がそこに横たわって睡眠をとっている。
……ようであったが、どうにもその様子は穏やかではなかった。
バッ!!!
「っ!?!?」
男はそれまで横たわっていた体をすさまじい勢いで起こし、乱れた呼吸を整える。
その様子はまるで、なにか悪夢でも見ていたかのようだ。
「…なぜだ…なぜまたあいつの夢を…」
男はそう言葉を漏らし、息を切らせながら、夢に出てきた一人の男の事を呪う。
彼にとってその男が夢に出てくることは悪夢以外の何物でもなく、そしてそんな夢をみることは一度や二度のみならず、何度も何度も繰り返されていた。
「(いい加減にしろよ…!俺はお前の顔など見たくはないんだ…!)」
…その夢に現れたのは、きらびやかな長髪をなびかせつつ、凛々しく厳しい表情を見せ、王子としてこの国の頂点に君臨しているあの人物…。
「……リヒト……やはりお前とはなにかの縁でもあるようだな……いずれ俺がこの手で必ずお前を…!」
低い口調でそう言葉をつぶやきながら、第一王子に尋常ではない敵意を向けるこの人物こそ、リヒトもまた警戒を行っていたルヴィン侯爵その人である。
――――
「ちょっとルヴィンちゃん、なにか顔色悪そうだけど大丈夫なのぉ?」
「うーーーるさい!!お前はその気持ちの悪い喋り方をなんとかしろ!!」
あんな夢を見たためか、やや寝不足な様子のルヴィン。
そんな彼に自身の腕をねっとりと絡ませて突然に話しかけてきたこの人物は、彼と同じく貴族家をまとめる立場にあるパテラだ。
ルヴィンよりも一回りほど大きな体に加え、容姿と雰囲気だけは貴族らしい上品な風格を持ち合わせており、女性からの人気が非常に高い人物である。
…もっとも、当の本人が果たしてどこまで女性に興味があるのかは
ちなみにパテラの爵位はルヴィンよりも上の伯爵であり、年齢もパテラの方がルヴィンより2つ上の24歳である。
「いいから離れろ!!っていうかお前また香水変えやがったな!!毎回匂いが変わって気持ち悪いんだよ!!」
「ええーー!今度こそ気に入ってくれると思って自信持ってたのにー!!なんでそんなひどいことをいうのよ!!……あ、もしかしてそれって本心の裏返し??ほんとは私の事が気になって仕方ないから、そんな乱暴なことばっかり言うんでしょ??」
「お前は少し黙ってろ!!!悪い病気になりそうだ!!!」
「まぁまぁ、もしもあなたが病気になったら私がつきっきりで看病してあげるわよ??もちろん体も心もね♪」
「」
…改めて言うものの、この二人は貴族家を束ねる立場にあるそれなりに偉い人物である…。
そして、にわかにはとてもそうには見えない二人が醸し出す独特な雰囲気に気づき、さらに1人の人物が吸い寄せられてくる。
「…場をわきまえて頂きたい。これから第一王子に対処するための貴族家会議が始まるというのに…」
丸眼鏡に手をかけ、そこから厳しい目つきを放つその人物は、二人と同じく貴族家を束ねる立場にあるリアードだ。
男らしさを感じさせる濃いひげを顎下にはやしながら、言い争いをやめようとしない二人の間に割って入ろうとするその姿は大いに大人の余裕を感じさせ、その色気に悩殺された女性はこれまでに数多い。
「リアードか……お前も来てい」「リアードちゃん聞いてよ!!私の方が偉いのにルヴィンちゃんったら全然構ってくれないんだけど!!まぁそんな風に私の事を乱暴に扱ってくるルヴィンちゃんもそれはそれで」「うるさい知るか!!!!そもそもなんでお前の方が俺より爵位が上なんだよ!!」「あーら、そんなのルヴィンちゃんを私に管理させるための第一王子のご配慮なんじゃないのぉ??」「ああもう聞こえない聞こえない!!」
「う…はぁ…」
…リアードの背中からは、近づいたことを後悔するオーラが放たれている…。
貴族としては非常に経験豊富な彼をもってしても、2人を止めることは困難であった様子…。
その時、この会議を取り仕切る立場にある司会者が自身の手をぱちぱちと叩き、集められた人々に向けて合図を送る。
「集まりましたかな。ではこれより、我々の中で非常に悪名名高いリヒト第一王子に関する緊急会議を開始いたします」
司会の者は大々的に走行絵を上げたものの、当然、そのような議題の会議を大っぴらに行うわけにはいかない。
ゆえにこの会議は非公式、かつ秘密裏に行われている物であり、この場に集められた者たちはルヴィンに同じく、リヒトに対して思うところのある者たちばかりであるという事になる。
そしてその掛け声とともに、集められた人々はそれまでそれぞれが自由に行っていた雑談をやめ、その表情を真剣なものにする。
当のルヴィンもまた、リヒトに対する思いをその心の中で固めたのだった。
「(…今に見ていろよリヒト…。お前のすましたその顔を必ず泣きわめかせてやるからな…)」
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