第1話 ダンジョンに行ってみます

 物心ついた時から魔術の練習ばかりしていた俺は実践をしたことが無い。それもそのはず、田舎すぎて近くにダンジョンも何も無いのだ。

 ある日、唐突にダンジョンに興味が出た。魔術の練習には飽き飽きしてきたし、そろそろ魔法を使えるイベントが欲しかったところだ。


「それで、ダンジョンに行きたいんだな」

「そういうことだね」

 父上が深刻そうな表情をしている。

「やめておけ。少なくとも一番近いダンジョンは危険すぎる」


 ―――どうやら、ヴァーダ村から一番近いダンジョンは難易度がかなり高いことで有名らしく、ましてや子どもに行かせるのは死の危険性もあるという。そりゃ止めるわけだ。

「でも、ここまで練習したんだからダンジョンくらい余裕だよ」

「あのなぁ…ただでさえユニークスキルが無いんだから、あのダンジョンは流石にいかせるわけにも行かないだろう。俺だって若い頃行ったことがあるが苦戦を強いられたほどだ」

 余談だが、父上の若い頃というとダンジョンが一種の流行りとなっていた時代らしい。最近はクエストをこなしてランクを上げるのが一般的だが、昔はどれほどダンジョンを攻略できたかが真のランクだ、とか言われていたらしい。


 ……とまぁ結果的には粘り続けたおかげで父上からダンジョンに行くことを許された。

「一番近いとは言っても、めっちゃ遠いんだよな…」

 ヴァーダ村からダンジョンまではかなりの距離がある。ほかの地域と比べても倍以上はあると言う。どこまで田舎なんだよこの村は。

 向かう途中で火力調整の練習をしてみた。恐らく間違えればダンジョンごと吹き飛ばしそうだと思ったから。


 朝から何時間もかけて歩きでダンジョンに着いた。もはやこっちのほうが達成感あるんじゃないかと思ってしまうほど疲れた。

「うおお…凄いなこれは」

 初めて目にするダンジョンには大層驚いた。ここまで不安気にさせてくるオーラ。

 今更だけど誰か連れてきたほうが良かったか。しかし、今はそんなこと考えている暇はないのかもしれない。

 薄暗い。というか誰もいない。こういう雰囲気のダンジョンはやりごたえがありそうだ。


(ガルルルル…)

 なんだ、今の音。

 視界の影響で分かりづらいが、オオカミのような魔物が目の前にいるようだ。

「オオカミなんて初めて見たけど、最初の魔物がオオカミというのもなんだか…って」

「いやでっか!全然オオカミじゃねぇじゃん!」

 想像の10倍は大きかった。近づくと化けるタイプの魔物なのか、最初より魔物感漂う獣になったように見える。

「ちょっと怖いから早めに始末するけど、恨まないでくれよ?」

 手に精神を集中させ、一気に魔物に向けて魔法を打ち込む。


「聖級魔法〈炎帝の劫火ブレイズ・ソヴリン〉!」

 竜巻のような炎が魔物を包み込み、恐ろしいほどの風圧と共に辺り一帯を爆散させた。

 あ、やりすぎた…

 ダンジョンはもう見る影もなくなっていた。流石にやりすぎたと自負しているが、飽きるほど魔術を練習してきた割には火力調整は苦手だったようだ。新しい発見に感謝しないと。


 行き帰りは歩きで済ませようと思ったが、もう日も沈みそうなのでバレない程度に転移魔法で移動する。転移魔法は世間一般では一個人が簡単に行えるものではないらしいので、あまり使いたくなかったけど。

 今日はもう疲れた。とりあえずこれで立派な魔法使いと言って差し支えないだろう。次は何しようか。剣術でもやってみるのもいいな。村の開拓事業とか…流石に10歳には手に負えないか、辞めておこう。

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