第6話 それぞれの道へ

「お前ら、なにやってんの?」


「しー、声が大きいよ。もう少し声小さくして。」


……呆れた。捕まったらどうなるか分かってんのかこいつら。


「僕たち今から脱走するけどさ、一緒に来ない?」


「お前ら正気かよ。俺は分の悪い賭けに乗るほど馬鹿ではないぜ」


「じゃあ、君はこれからずっとその牢獄の中で生きていくのかい?」


そんなの嫌に決まってるじゃないか、と口から出かかる。今まで何度脱走しようと思ったことか。ライアンは続ける。


「僕はかなり強い。それこそ、この闘技場の中では1位2位くらいにはね。それにここには僕と昔冒険を共にしていた子もいるし、そこまで分は悪くないと思う」


ライアンの隣に立っている男を見る。こいつ見た目は弱そうだけど昔ライアンと冒険してたってことはそれなりに強いのか。


「それに君が来ればこの脱走が上手く行く確率も上がるだろう。外に出てやりたいことはないのかい?」


考える。……美味しいものが食べたい。昔の友達に会いたい。家に帰りたい。



一瞬外が光ったと思ったら壁が吹き飛んだ。


「! 何してんだ?!」


「あーごめん、サイモンに頼んで魔法で壁壊してもらっちゃった。見張りすぐに来ちゃうね」


「来ちゃうね、じゃねえよ。俺も逃げねえと行けなくなったじゃねえか」


「よし、じゃあ一緒に逃げよう」


まじで頭おかしい。こいつと絡まなきゃよかったか。


もともと壁があった場所に足を掛け、飛ぶ。


いや。面白い人生になりそうだ。



三人の影が夜空に浮かぶ月に照らされながら屋根の上を走り去っていく。


「そういや、お前サイモンって言ったか。魔法使えるってことはエルフ族なのか?」


「いや、人族だよ。三回深化した時に使えるようになった」


人族と聞いて驚く。深化したら魔法って使えるようになるのか。いや、けどライアンは魔法使えないって聞いたぞ。


「なんかね、サイモンは特殊で闘気に加えて魔法も使えるんだよね。普通の人族は使えない筈なんだけど。もしかしたら遠い親戚にエルフがいるのかもね」


へぇ。血によって使えるものが変わったりするのか。勉強になった。


サイモンに走りながら話かけられる。


「そういえば君の名前ってなんていうんだっけ」


「クルトだ」


「クルトか。僕達これから故郷に戻ってほとぼりが覚めるまでしばらく隠れていようと思ってるんだけど、クルトはどうする?」


「俺は家に一回顔を出して母さんと兄妹が無事か確認してから……まあ、適当にブラブラするわ」


「そっか。僕達、また会えるといいね」


「二人とも、壁が見えてきたよ!!!」


ライアンが大声で言う。目の前に大きな壁が出てきた。壁を越えれば家に帰れると思うと足が早くなって来る。


「「「せーの!」」」


走りながら三人で壁をぶち壊しそれぞれの行き先へと走り去る。



その日俺達は闘技場設立以来五番目の脱走犯となった。


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